キヤノンが中国工場を閉鎖した温かい物語~日中ビジネス交渉人 徐静波の日本企業へのメッセージ

 最近、中国の友人から最も多く寄せられる質問は、「中日両国はいつ戦争を始めるのか?」というものである。高市首相は台湾問題に関する自身の発言を撤回することを一貫して拒否している。一方、中国側は繰り返し「高市首相が発言を撤回することが両国関係を改善するための最も重要な条件である」と強調している。両国の間に火薬の匂いがますます濃くなっている状況だ。

 そんな中日関係が厳しい寒冬を迎えている時期に、広東省から春の風のような温かいニュースが伝わってきた。キヤノンの中山工場が閉鎖されたものの、会社は従業員を厚遇し、追加の補助金を支給したのである。このニュースは、無数の中国人を深く感動させた。

 25年11月21日、キヤノンは24年間操業を続けてきた中国・広東省中山市のプリンター工場を閉鎖した。影響を受けた従業員は約1,400人に上る。しかし、この閉鎖は単なる「撤退」ではなかった。中国のSNS上で大きな反響を呼び、キヤノンの有名なスローガン「感動常在」が、まさに現実のものとなったのである。

 キヤノン中山工場は01年に設立されたキヤノンの100%子会社である。かつては世界最大の白黒レーザープリンター生産拠点であり、ピーク時には1万人以上が働いていた。累計生産台数は1.1億台に達し、世界市場の半分を占めるほどの巨大工場だった。中国の改革開放期に日本企業が大量に進出した象徴的な存在でもあった。しかし、2025年11月21日、生産を停止した。従業員は一時休暇に入り、会社は労働組合と労働関係の解除方案を協議した。

 驚くべきはキヤノンの対応である。11月29日に発表された補償方案は、法定基準をはるかに上回る「超優遇」だった。中国の労働合同法では解雇時の補償は基本的に「N+1」(Nは勤続年数に応じた月給)であるが、キヤノンは「2.5N+1」または「2.3N」程度の経済補償金に加え、5カ月分の就職支援金、さらに勤続10年以上の従業員には1万元や5,000元といったボーナスまで支給した。たとえば、勤続18年のベテラン従業員は総額約40万元(約800万円)を受け取ったケースもある。なかには60万元(約1,200万円)を超える例もあった。中国のネット上では「悪意補償」(良い意味での「悪意ある補償」)というジョークが飛び交うほど皆が驚いた。

 さらに、再就職支援も手厚かった。キヤノン人事部は1人ひとりのスキルプロフィールを整理し、専用の採用説明会を開催したり、社長が推薦状を書いたりした。従業員の家族を招待した「卒業式」のような送別会も行われた。給与を支払わず夜逃げする悪質な企業もあるなかで、キヤノンは透明性の高い協議を行い、サプライヤーへの支払いも確実に行ったため、サプライチェーンの危機も発生しなかった。

 そして最も心を打つのは、あの送別の場面である。キヤノン(中国)有限公司の小澤秀樹社長が、目立たないように夜行便で中山市を離れようとしたところ、情報を得た300人以上の従業員が空港に駆けつけた。黙って見送る人、バラの花を手にした人、皆で小澤社長を囲んで感謝の言葉を伝えた。結果、飛行機の出発が18分遅れたという。工場内でも、最後まで清掃員のおばさんが床を磨き、警備員が植物に水をやり、幹部たちが入口に並んで従業員を送り出した。多くの人が涙をこらえながら、一歩ごとに三度振り返ったという……。この様子を見て、中国のSNS上は「全網破防」(全員の心の壁が崩壊した)と表現している。「キヤノン、感動はいつもそこに」──まさにキヤノンのスローガンが生きている。

 この物語は、中日協力の美しい一ページである。日本企業が中国で成長し、中国の発展とともに変化に対応してきた。小澤社長のようなリーダーが中国従業員の心をつかみ、互いに敬意を払った。小澤社長が最後に飛行機に搭乗したとき、心にはきっと温かさが残ったはずだ。キヤノンの「キヤノン、感動はいつもそこに」は、製品ではなく、人心のなかにこそある。


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