2024年11月26日( 火 )

買収容疑で田母神元空幕長逮捕~政治とカネの感覚麻痺が蔓延

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政治とカネの感覚が与党を中心にマヒしている。

money 元航空幕僚長の田母神(たもがみ)俊雄容疑者(67)が、2014年の東京都知事選で運動員に報酬を支払ったとして、公職選挙法違反の運動員買収容疑で逮捕された。田母神容疑者のような「突撃隊長」もどきの過去の人物の買収事件よりも、甘利明前経済再生相・TPP担当相のあっせん利得疑惑の方が大問題だ。元検察官の郷原信郎弁護士が「絵に描いたようなあっせん利得」とブログで指摘してから約3カ月たって東京地検特捜部が強制捜査に踏み切り、今後どのように展開され、政局にどう影響するのか。そちらの方が読者の関心だろうが、安倍内閣で政治とカネの感覚麻痺が表面化しているので、それも含めて、事件を振り返ってみた。

 報道によれば、田母神容疑者は東京都知事選落選後、運動員に合計480万円の現金を配ったとされている。田母神容疑者は、都知事選では立候補者16人のうち14位で落選。14年に、代表を務める資金管理団体が約1億3,000万円もの政治資金収入を得た。空幕長当時、「日中戦争は侵略戦争ではない」「日米戦争はフランクリン・ルーズベルトによる策略であった」などと主張する懸賞論文を発表し、更迭され、その後も尖閣諸島への上陸という盲動を繰り返し、知名度は高く、多額の政治資金を集めた。

 田母神容疑者は、国政選挙への出馬も繰り返し公言してきた。選挙でお金を配ってはいけないという基本は、「明るい選挙」や「三ない運動」などの選挙啓蒙活動で繰り返し強調される常識である。その常識を欠落させていたとすれば、田母神容疑者はどのような感覚で政治家をめざしていたのか。

 日本の旧陸軍の関東軍では、岸信介氏(満州国総務庁次長、のちの首相。安倍晋三首相の祖父)ら関係者が巨額のアヘンマネーを手にして、政界工作や私的に着服していたと言われる。対中国戦争を擁護してはばからない田母神容疑者は、「懐に入ったお金は、功労者で山分けしてもいい」という戦前の関東軍の感覚まで継承していたのかもしれない。今回は、「濾過機」が不十分で「きれいな水」にならなかったと、筋の違う反省をしているかもしれない。

 今回、事件に発展したのは、田母神容疑者自身が報道で「チャンネル桜の水島社長が告発したから」と語っている。戦前回帰派にとって賞味期限の切れた小物には、守ってくれる後ろ盾がなくなったとも言える。

 安倍内閣に目を転じれば、政治資金をめぐって、閣僚辞任が相次いでいる。甘利氏で4人目になる異常事態だ。まずは、14年の女性閣僚ダブル辞任だ。小渕優子経済産業相(当時)が後援会などの観劇ツアー費用の未記載、松島みどり法相(当時)は、選挙区内の支持者へのうちわ配布。15年には、西川公也農林水産相(当時)は、代表を務める政治団体が、農水省の補助金交付が決まっていた砂糖業界の関係団体から献金を受けていたことが発覚し辞任。「落選運動を支援する会」が発足以来、政治資金規正法違反容疑などで刑事告発した国会議員は12人にのぼる。

 容疑や疑惑が政治資金収支報告書への不記載や虚偽記載ということで、単なる書き忘れ、書き間違いと軽く考える向きがあれば勘違いもはなはだしい。1件1件を見ると、何百万円もの支出を書き忘れていれば、多額のキャッシュ(預貯金も含め)が残っているはずなのに残っていないのだから収支報告書を提出した時に気付くはずである。収入を書き忘れていれば、残っていないはずのお金が残っているので、同じく気付くはずだ。要するに、書くことができない収入や支出を裏金として処理し、バレたから言い訳を考えたという疑惑が生じている。「誤記載があったので訂正済み」ですむという慣れを許していれば、再発防止はおぼつかない。預金通帳の入出金明細や領収書などを公開して国民が納得できる説明をすべきだ。

 最近は、国会議員の政治資金には、政治家個人や後援会が集めた献金だけではなく、政党交付金という国民から強制拠出させた税金が党本部を通じて還流している。政党交付金をめぐる疑惑は、税金が原資であるので、単なる政治とカネの透明性以上に重い。何百万円もの税金が使途不明であったり、使途をご記載していたり、不正に使われていれば犯罪にもなりうる。国の補助金・助成金でも、支給した後、使い道はノーチェックということはありえない。政党交付金として政党に渡した後は、自由御免というのは、手前味噌が過ぎる。

 「選挙に金がかかったが、ポケットマネーが入ってウハウハ、好き勝手に使ってやれ」であっていいはずはない。政治資金は、政治家個人のお金ではなく、「民主政治の健全な発達を希求して拠出される国民の浄財」だ。政治資金規正法の目的は、「政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため」であり、「政治活動の公明と公正を確保し、もつて民主政治の健全な発達に寄与すること」にある。

【秋山 広】

 

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