2024年11月22日( 金 )

トランプ指名で、今後のアメリカ大統領選挙はどうなるのか?(1)

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副島国家戦略研究所(SNSI)研究員 中田 安彦

 まるで、全米の有権者が魔法にかけられてしまったかのようだった。

 7月の共和党党大会の2カ月も前に、ドナルド・トランプが破竹の勢いで、2016年アメリカ大統領選挙の共和党指名候補の座を射止めてしまった。支持者集会や討論会などで、激しい勢いで右手を自由自在に動かしながら持論を語る、リアリティテレビ番組のスターである不動産王を、共和党の主流派はとうとう食い止めることができなかった。
 当初は、トランプ支持者と反対派がモミ合いになるなか、数度の決選投票を経て候補が決まると「荒れる党大会」を予想していた関係者も多く、トランプ自身も支持集会で支持者と反対派が暴力沙汰を起こすなか、「党大会が大荒れになるぞ」と共和党指導部にロコツに脅しをかけていたのだが、肩透かしを食らった感じだ。どうせなら、大揉めに揉めてくれたほうが面白かった。

ドナルド・トランプ氏<

ドナルド・トランプ氏

 3月1日の「スーパー・チューズデー」と呼ばれる予備選挙集中日から2カ月、カリフォルニア州を含めた9州の予備選挙の日を迎える前に、トランプの対抗馬は次々と脱落していった。CNNによると、反トランプ陣営は6万4,000本の反トランプのCMを打つために、7,500万ドルもの巨額の資金を注ぎ込んだ。しかし、トランプの対抗馬のテッド・クルーズ上院議員は、3月から現在までに行われた43州・自治州の党員集会・予備選挙で9州でしか勝利を収めることができなかった。
 一方のトランプは、4月19日に行われた地元、ニューヨーク州の予備選挙で初めて6割の得票率に達した。それまでトランプは、5割の大台すら上回ることができなかったが、ニューヨーク五番街に選挙本部と自宅を兼ねた高層ビルの「トランプタワー」があるだけに、不動産王は実力を見せつけた。4月26日には北東部の5州で予備選が行われたが、ここでも5割から6割を超える圧倒的な得票を得た。最後の指名が決まったインディア州の予備選までで、イギリスの「エコノミスト」の集計によると、トランプは、ブッシュ元大統領が2000年の予備選で獲得した1,080万票に迫る1,060万票をはじき出した(クルーズは730万票、ケーシックは380万票)。
 この結果、当初の「党大会までトランプは1,237の代議員を獲得できずに候補者選びは長期化する」という見方を覆したのである。

 一方、指名獲得を視野に入れたワシントンDCに対する工作も、ニューヨーク州の予備選に前後して彼は始めている。先月27日には予備選の勝利の直後、ワシントンで外交専門誌「ナショナル・インタレスト」主催のシンポジウムで、自らの外交政策を40分にわたって説明。これまでの外交政策を担当してきた識者たちからは、「アメリカの国際的な役割を無視した支離滅裂な孤立主義的政策だ」などと批判を受けたが、この主催者の外交誌の編集長のように、ブッシュ政権のネオコン政策に批判的な向きからは、両手を上げての賛同はなかったものの、「議論のたたき台」になると、それほどの悪評でもなかった。

 そもそもアメリカの外交政策が内向きになっているという批判は、すでにオバマ大統領の政策についても、対外的に積極的に米軍を派兵しようとするネオコン派たちから批判があった。オバマとトランプの外交政策は、演説や表現のトーンやニュアンスが違うだけで、対イラン合意についての評価やイスラム教徒や移民に対する国内政策が違うだけで、中東におけるアメリカ軍の関与を少なくしていこうという方向性の点では、ほとんど同じであるという「評価」も(密かにヒラリーのほうがマシだと考えている)、当のネオコン派から出ている。
 オバマが今年のはじめにリベラル系の雑誌「アトランティック」のインタビューで話している「オバマドクトリン」を読んでみても、トランプの言うアメリカの同盟国が防衛費を負担しないでアメリカに「ただ乗り」しているという批判と同じようなオバマの意見も見られる。オバマが、シリアへの人道主義的軍事介入を主張する側近を説き伏せて、米軍のシリアへの介入を食い止めたことなどがこの記事には書かれており、ブッシュ政権のイラク戦争を批判するトランプに共鳴する部分が多い。

 ネオコンの代表格で、トランプつぶしのための第三党候補を擁立しようという動きをみせている、ウィリアム・クリストル(「ウィークリー・スタンダード」編集長)などは「ドナルド・J・オバマ」(5月9日付け)とトランプを揶揄するコラムを書いていたほどだ。ネオコン派のクリストルは、苦し紛れにトランプの対抗馬を擁立する運動を行っているが、あえなく失敗するだろう。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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