2024年12月24日( 火 )

ドナルド・トランプ候補の支持率はなぜ急降下したのか(1)

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副島国家戦略研究所・中田安彦

 アメリカ大統領選挙の本選挙の前の大きなお祭りである、共和党、民主党の党大会が7月末に行われた。共和・民主の両党の大統領候補と副大統領候補が正式に指名され、ここからいよいよ大統領選挙に突入する。予備選挙で候補指名に必要な代議員を獲得した段階では、指名見込み候補(presumtive nominee)だったに過ぎない。共和党も民主党も息子が海兵隊に従軍している、インディアナ州知事のマイク・ペンスとヴァージニア州選出上院議員のティム・ケーンが副大統領に選ばれた。

 党大会終了後は各党の候補者の支持率が上昇するのが通例だ。これをポスト・コンベンション・バウンスと呼ぶ。バウンスというのは跳ね上がるという意味だ。ところが今年の大統領選挙では異変が起きている。共和党のトランプの支持率が軒並み急降下しているのだ。日本でもメディアがよく引用する政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によると、民主党大会途中からの全国支持率調査では、NBCがヒラリー8ポイントリード、CNNが同9ポイント、CBSが同6ポイント、FOXニュースがなんと同10ポイントのリードとなっている。唯一、LAタイムズだけがトランプ1ポイントリードとなっているが、3%程度は誤差の範囲だと考えればトランプの伸び悩みがわかると思う。

政治情報サイトRCPの平均では8月4日現在ヒラリーが5.1%リード 政治情報サイトRCPの平均では8月4日現在ヒラリーが5.1%リード

 なぜこのようなことになっているのか。
 既に日本でも報じられているように、最大の原因はトランプが民主党大会の最終日に登場した、息子がイスラム教徒で従軍し、イラクに派兵され2004年に爆弾テロにあって殉職したフマユーン・カーン陸軍大尉の両親の演説を、トランプがツイッターやインタビューで罵倒したからだ。カーン大尉の父親キズル・カーンは法律学者で、民主党大会でのスピーチで国のために「何一つ犠牲にしていない」とトランプ氏を批判した。これにカッと来たトランプは、夫妻に対してメディアのインタビューで反論を試み、「俺だって経営者として多くの犠牲を払っている」とか「カーン大尉の母親がスピーチの時に何も喋らなかったのはそうさせてもらえなかったからだろう」と暗にイスラム教では女性を差別しているという含みを持たせて批判した。カーン氏は自分の胸ポケットに「偶然」はいっていた、合衆国憲法を高く掲げ、「トランプさん、あなたは憲法を読んだことがあるのか。なんなら私のを貸してあげますよ」と啖呵を切った。これがこの党大会の白眉だったといえよう。何しろトランプは存在しない条文について語るなど、前々から合衆国憲法についての知識があやふやであると指摘されていた。

 さて、トランプの最大の武器はツイッターでの書き込みであると同時に、最大の落とし穴もツイッターだ。ただ、トランプは側近のチェックを受けたうえでツイートするのではなく、その時思いついたままをツイートしている。だからあそこまでの威勢のいい罵倒を繰り返すことが出来るとも言えるのだが、最近は裏目に出ることのほうが多い。トランプがカーン夫妻を批判するやいなや、ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズなど、トランプに敵視されているメディアが集中砲火を浴びせた。さらに、肝心のカーン夫妻がテレビに相次いで出演し、カーン氏が「トランプにはリーダとして必要な思いやりの心(エンパシー)がない」と激しく批判したほか、奥さんも「あの時私が何も喋れなかったのは体調不良だったからだ」と反論した。少し考えれば分かるように、アメリカでは戦死者は国のために命をなげうった英雄だ。その遺族をばかにすることは許されない。これはどこの国でも共通のルールだ。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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