「平成の玉音放送」を海外メディアはどう報じたか(1)
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SNSI・副島国家戦略研究所 中田 安彦
8月8日にすべてのテレビ局で放送された天皇陛下の「お気持ち」表明について、海外のメディアはどのように報じたか――。このことを知ることによって、日本の政治情勢が海外によってどのように認識されているのか、わかるのではないか。
天皇陛下が、高齢にともない、日本国憲法が定める国事行為やそれ以外の象徴としての立場から生まれる公的行為の務めを全身全霊で果たすことが困難になるのではないかというご懸念から、今回の「お気持ち」表明になった。私もこの8月8日にセッティングされた「平成の玉音放送」を、ラジオを前に聞いた。天皇陛下が記者会見以外、直接国民に向けてメッセージを発せられるのは、2011年3月16日に放送された、東日本大震災の際の励ましのお言葉以来、2度目のことだ。
震災のときと比べて、まず最初に感じたのは、陛下のお言葉が重く沈んだように感じられたことだ。言葉の運び方1つを聞いただけで、かなりご高齢が公務に影響をおよぼし始めているのではないかとわかった。音声や映像が重要なのは、活字ではわからない情報が伝えられることだ。ご自身が健康なうちに、皇太子さまに皇位を継承して、皇室の継続を願っておられるのも納得できた。海外のメディアの論調は、この天皇陛下によるメッセージが、憲法改正に対する牽制ではないかと推測するものが見られた。この推測には、これまでの安倍政権になってからの陛下の念頭や終戦の日のお言葉の変化や、生前退位の意向の表明が、参院選で憲法改正の発議を可能にする「改憲勢力3分の2」の達成が実現してしまい、いよいよ憲法改正に向かって議論が始まると考えられた矢先の7月13日にNHKによって突如スクープされたことが関係しているだろう。
海外のメディアは、日本国内や海外の皇室事情について詳しい識者からインタビューして、この「生前退位の意思」を表明したビデオについて報じていたが、そのなかでも私が注目したのは、イギリスの経済紙「フィナンシャル・タイムズ(FT)」や「ワシントン・ポスト」、ネットメディアの「デイリー・ビースト」の記事だ。FTは、陛下の「ご学友」として知られる元共同通信記者の橋本明氏のコメントを載せていた。橋本氏は、陛下が皇太子の学習院高等科在学時代に、陛下から「銀座に行きたい」と相談を受け、同級生と一緒に3人で銀座に繰り出したという「銀ブラ事件」の一件で知られる。
橋本氏は、FTの取材に対し、「天皇陛下は、戦略思考の持ち主(a strategic thinker)であり、よくよく考えて計画を実施されるお方です」と答えている。そして、橋本氏は、平和主義者である陛下の考えを踏まえ、「生前退位ご表明の狙いは、世間の関心を皇室の将来に向けさせ、憲法9条改正に関する議論を先送りさせることにある」とインタビューで指摘している。
私も、この見方に概ね賛成である。参院選結果を受けてのタイミングでのNHKのスクープであり、「お気持ち」表明を長崎への原爆投下の日の前日の8月8日に設定するという選択にも、陛下が最小にして最大の効果を狙ったかはよくわかる。お気持ち表明が、その意向のリーク報道の1週間後では歴史に残らない。8月6日の広島原爆、8月9日の長崎原爆の日に挟まれた日、そして、昭和の玉音放送のちょうど1週間前の8日に放送日を設定することで、この「平成の玉音放送」は、歴史に存在を刻みつけることに成功するのだ。まさに「戦略的思考」というほかない。
改憲論議に対して一石を投じようとしたという見方については、「天皇は政治的権能を有しない」と規定された憲法上、天皇陛下がそのような意向を(仮に思っていたとしても)明言することはあり得ない、とする見方もある。それは当然であるが、陛下のこれまでのさまざまなお言葉を検討していけば、このタイミングで、天皇陛下が「国民統合の象徴」としての自らの役割について持論をわざわざ述べるということは、明確な政治的意味を持つと理解するほかない。そのような視点で書かれた海外の記事は多い。
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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