キッシンジャーが根回しするトランプ新政権の東アジア外交政策(中)
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副島国家戦略研究所・中田安彦
米共和党には古くからチャイナロビー派と言われる中華民国(台湾)を支持する政治グループと、キッシンジャーやブッシュ政権の財務長官だったポールソンのような親中派の2つの派閥がある。しかし、この2つの派閥は必ずしも激しく対立しているわけではない。キッシンジャーの外交政策はアメリカやソ連、中国のような核保有する大国の勢力均衡を重視することで核戦争のような破局を防ぐという考えに基づいている。台湾が中国に吸収されても、独立してもパワーバランスが崩れてしまうので、それは望ましいことではない。この点で中国派のキッシンジャーとチャイナロビー派は利害を同じくしている。現在、中国は大国化に伴い、軍事的にも強大化しており、これにバランスするためには台湾の防衛力強化が必要であるという理屈になるわけだ。つまり、ヘリテイジ財団の動きは防衛力強化につながる潜水艦や駆逐艦供与などの武器ビジネスと連動している。
クリントン政権時代、台湾に対しては過度の冷遇政策を取ってしまったため、中国に対する危機感が李登輝総統のような台湾自立派の急進的な動きに繋がった反省もあり、ブッシュ政権ではクリントン政権時代の政策(「3つのノー」という「台湾の国際機関への加盟を支援しない」ことも含むかなり親中的な政策)の見直しが行われている。実はトランプが共和党候補に指名された今年の党大会でも、レーガン政権時代に打ち出された、「6つの保証」を再確認することを政策綱領に盛り込んでいる。これは「台湾への武器売却の期限を設けない」「台湾への武器売却について中国大陸と事前に協議を行わない」などの6項目からなる。共和党全国委員長のプリーバス次期首席補佐官は親台湾派であり、その意向が盛り込まれたのだろう。
トランプと蔡英文の電話会談が報じられた直後の6日、ヘリテイジ財団のメンバーであるスティーブン・イエーツが台湾を訪問したと「産経新聞」(7日朝刊)が報じたが、「米国の政策が大きく変化するのは合理的ではない」と台湾側にメッセージを送ったと報じられている。つまり、ヘリテイジ側としても「現状維持」を望むことを表明したことになる。ブッシュ政権やレーガン政権のように、台湾には武器を売却するがそれ以上は望むべきではないという意図だろう。過度に台湾の独立派を焚き付けることはアメリカにも得策ではないが、それでも国内製造業の基盤強化につながる武器ビジネスはしたいということだ。キッシンジャーはこの点も含めて中国に説明したかもしれない。したがって、ある意味ではビジネスライクな関係であるので、日本もあまり過度に反応するべきではない。
トランプは自らの選挙スローガンを「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン」とレーガン選挙のスローガンをそのまま使っている。これは、アメリカが戦後最良の勢いを持っていた時代への郷愁の表れであると同時に外交・経済政策でもレーガン政権を踏襲するという意志の現れだろう。当時と今が違うのは、現在はイデオロギー的に和解できないソ連ではなく、あくまで競争相手としてロシアと中国が存在し、その大国との実利中心の「取引」によって国家が運営されていく、という点だ。中国大使に親中派の人物を選んだことからもわかるように、トランプ政権は反中一辺倒ではない。この点では日本にとっても安心できる材料だ。そして、その外交戦略を描いているのは、どうやらヘンリー・キッシンジャーその人であるということが、今回のキッシンジャーのトランプタワーと中国の北京の「往復外交」によって明らかになってきたということだ。
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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