2024年11月22日( 金 )

ハゲタカファースト安倍政治の打破(1)

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政治経済学者 植草 一秀 氏

 英国のEU離脱と、米大統領選でのトランプ当選。これらは「主権者である国民の利益に反したメディアの報道にもかかわらず、民意が明確な選択を下した」結果である。そして日本の国会でのTPP強行採決。これも自国の利益にならないにもかかわらず、為政者が意図の明らかではない強硬手段を取った例だ。近年、民意を汲み上げる手段としての民主主義と、利潤を追求する手段としての資本主義に明らかな食い違いが起こっている。この先に待っている2017年、そして未来はどういうかたちなのか、政治経済学者の植草一秀氏が舌鋒鋭く解き明かす。

世界政治の三大ミステリー

 2016年の世界政治には、「三大ミステリー」があった。第一は、6月23日の英国国民投票でEU離脱が決定した結果に対してメディアが全面否定の論調をまき散らしたこと。第二は、11月8日の米国大統領選に向けてメディアがトランプ叩きの総攻撃を加えたこと。第三は、TPPで国益を大きく失う日本の安倍政権がそのTPPを遮二無二強行推進したこと、である。

uk_eu 英国国民投票では、事前の調査ではEU離脱賛成と反対がほぼ互角だった。EU離脱の判断が示される可能性は十分あった。結果は離脱の選択だった。当然予想できる出来事だったにもかかわらず、この結果に対してメディアが一斉に「世紀の過ち」といった論調の記事をまき散らした。異様な光景だった。日本のテレビメディアも、EU離脱の判断を頭ごなしに否定する論評だけが流布された。

 米国大統領候補だったトランプ氏が過激な発言を示してきたことは周知の事実である。それでもトランプ氏は正規の手続きを経て共和党指名候補に選出された。そして、民主党候補のクリントン前国務長官との対決に臨んだのである。

 このなかで、米国の主要メディアが、執拗に、そして徹底的にトランプ叩きを演じた。中立公正でなければならないはずのテレビ討論でも、司会者が露骨にトランプ氏を攻撃し、クリントン氏に加勢するスタンスを取り続けた。この「逆境」を跳ね返してトランプ氏は勝利を勝ち取ったが、選挙結果が明らかになった後においても、メディアはトランプ氏攻撃を続けている。これもまた異様な光景だった。

 TPPは一言で表現するなら、「ハゲタカのハゲタカによるハゲタカのための条約」である。元はニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの4カ国で始められた地域協定だったが、10年に米国が交渉に参加して基本性格が激変した。TPPは米国の巨大資本が日本を収奪するための、いわば最終兵器である。米国は日本市場を収奪するためにさまざまな取り組みを展開してきた。

 米国が、年次改革要望書によって日本の郵政民営化をもぎ取ったことはよく知られている。しかし、これらの交渉には強制力がなかった。その欠陥を完全に補い、日本を完全に収奪できる枠組みがTPPなのである。

 TPPは日本にとって、より正確に言えば日本国民にとって「百害あって一利のない」協定である。だからこそ、安倍自民党は12年12月総選挙に際して「TPP断固反対!」と大書したポスターを貼り巡らせた。そのTPPに安倍政権が完全に前のめりになっている。

 極めつけは、大統領に選出されたら大統領就任当日にTPPから離脱することを主権者と「契約」したトランプ氏の大統領選勝利が確定した翌日に、安倍政権与党がTPP批准案を衆議院で強行可決したことだ。安倍首相は大統領選最終局面に訪米した際、クリントン氏とだけ面会した。クリントン支持の旗幟を鮮明にしたのである。そして、トランプ氏の勝利が確定した翌日に、トランプ氏が明確に反対しているTPPの衆院強行採決に突き進んだのだ。喧嘩を売っていると受け止められて当然の行為である。

(つづく)

<プロフィール>
uekusa植草 一秀 (うえくさ かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。また、政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

 
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