トランプ新大統領の率いるアメリカの行方(1)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
米大統領選史上まれに見る接戦を制して、共和党のドナルド・トランプ候補が民主党のヒラリー・クリントン候補を破って次期アメリカ大統領に選出された。2017年1月20日に、第45代アメリカ合衆国大統領として権力の座に就くことになる。「軍人、政治家としての公職経験を持たない初めての大統領」として、そして選挙期間中に繰り返した暴言癖の持ち主として注目されるトランプ新大統領だが、その実態を知る人は少ない。経営者として幅広い活躍を見せてきたトランプ新大統領の姿を通じて、次の時代のアメリカがどう動くかを浜田和幸氏が読み解く。
アメリカではドナルド・トランプ新大統領の誕生が決まり、新生アメリカへの期待が高まっている。想定外という声も聞かれたが、ホワイトハウスをクリントン家とブッシュ家でたらい回しするような政治に対する国民からの「NO!」が突き付けられた結果だ。
アメリカの主要メディアはこぞってヒラリー・クリントン氏を支持していたが、これこそ驚きである。国民の意識を全く理解していないわけで、かつて「第4の権力」とまで言われたアメリカのメディアの終焉を印象付けていると言わざるを得ない。
そのトランプ氏。史上最高齢となる70歳である。しかし、2年近くにおよぶ選挙戦を戦い抜き、メキシコ国境に壁を造らせるとか、女性問題等で物議を醸しながらも、持ち前の大胆な発言とユーモアで有権者の気持ちを鷲掴みにしたエネルギーは大したものである。そんな異端児ともいわれるトランプ氏はどのような世界を目指しているのだろうか。アメリカ人のみならず各国の人々が熱い眼差しを寄せている。巷では、「過激な発言を繰り返す、公職経験の全くない不動産王」としてのイメージが先行していた。しかも、「税金逃れの天才」といった、どちらかと言えば負のイメージばかり。
とはいえ、自らの努力で事業の失敗を何度も乗り越え、最終的にはアメリカを代表するようなカジノ・リゾート・不動産開発の第一人者の地位を獲得した手腕には無視できないものがあるといえよう。今回、大方の予想を覆す結果をもたらしたが、その裏には知られざる周到な事前の準備が重ねられていたのである。● ● ●
実は前回の大統領選挙においても、トランプ氏は共和党の指名を得ようと選挙戦に名乗りを上げていた。その当時は、「時期尚早」との判断で、早々と選挙戦からは離脱したのである。これまで長年にわたり、不動産開発やカジノ経営などさまざまな事業展開を行うにあたり、トランプは事前の調査を丹念に行うのがいつものパターンであった。
そのために、多様な人々と忌憚なく意見を交わすことを生業にしていた。例えば、ロシアやヨーロッパ、また中国や日本にも頻繁に足を運び、投資案件の下打ち合わせはもちろん、自らの嗅覚に従い、事業の可能性を探ることを常に繰り返してきた。
中国からの外交団をニューヨークでもてなし、自らが所有するトランプタワーを初対面の中国人たちに案内して回ったこともある。また、ロシアを度々訪ね、モスクワからウラジオストックまで、将来性のある不動産の開発案件をまとめようと図り、自らの足で各地を視察して回ったこともある。
その延長線で、日本とロシアの間に横たわる、のどに刺さった棘のような北方領土問題の存在にも行き当たった。トランプ氏は日本が「固有の領土」として返還を求めている北方領土に自らがリゾート計画を誘致することで、日本、ロシア、アメリカの3カ国の関係改善に役立てようと動き始めた。国後島や択捉島の恵まれた自然環境に着目し、国際的なハブ空港を建設すると同時に、アジア太平洋地域で最大規模を誇る一大リゾート開発に取り組もうとの構想を思いついたのである。
中国とロシアの間では国境線の確定に関する交渉が紆余曲折を経て、40年の時間の後にようやく決着したことも、トランプ氏の脳裏に刺激となったに違いない。同じように、ロシアと日本の間の国境線の確定に関しても、両国間で経済交流が進むことによって政治的な「引き分け」という果実が得られるようになる、と彼なりの計算を弾いたのであろう。
そう判断したトランプ氏は、ロシアや日本をしばしば訪問し、ロシアの了解を得たうえで日本からの投資を呼び込み、現地のロシア人の雇用を確保できるように奔走したのである。1990年代の後半から2000年代の初期にかけてのトランプ流「隠密外交」であった。アメリカのみならず、ロシアや中国、そして韓国や日本の観光客やカジノ愛好家を呼び込もうとする試みだ。
残念ながら、日本側の反応が今一つで、このトランプ構想はこれまで実現するには至っていない。筆者は参議院の予算委員会で安倍総理や岸田外務大臣に、このトランプ構想についての見解を質したが、具体的な返答はなかった。しかし、今回の大統領選挙の結果、トランプ氏はロシアのプーチン大統領とも似た者同士という親和性が働き始めたようで、今後は一気にこの北方領土リゾート開発計画が進展する可能性が出てきた。● ● ●
今回の選挙報道で日本での知名度が一気に上がったが、トランプ氏にはイヴァンカという名の美人の娘がいる。彼女は父親の大統領選挙で夫人以上に各地での遊説で大活躍をしていた。この彼女こそ、トランプ氏の「最終兵器」に他ならない。なぜなら、ロシアでも中国でもトランプ氏以上に人気を博しているからだ。
その巧妙な話術や父親譲りの押しの強さで、行く先々で多くの聴衆の心を動かしている。メディアに登場する回数も群を抜いており、ネット上では父親が霞むほどのスター的役割を果たしていて、トランプ当選の影の立役者といっても過言ではない。中国では彼女のファンクラブもできているほどだ。
トランプ氏には他にもビジネスマンとして父の後を継ぐ可能性の高い有能な息子たちがいる。三度の結婚を通じて、子どもの数も5人、孫は8人と増える一方である。それぞれが父のアメリカン・ドリームを実現する動きを応援しているのも、頼もしい限りといえよう。この点は選挙戦を戦った相手のヒラリー・クリントン一家とは趣を全く異にしている。(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。関連キーワード
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