【特集】復配の裏に何があるのか──問われる城山観光の経営実態と支配構造(前)
城山観光(株)
「株主が期待していない配当をなぜ強行するのか」。城山ホテル鹿児島を運営する城山観光(株)が5期ぶりの復配に踏み切ったことに、地元経済人や一部株主から疑念の声が挙がっている。6期連続の本業赤字に加え、財務制限条項に違反した状態での配当決定。しかも、その原資は祖業ともいえる子会社・(株)モリナガの売却益だ。優良子会社を、株主への事前説明もないまま売却し、「配当」というかたちで還元する。売却益の正当化、ひいてはその妥当性への批判を封じ込めるような効用さえ帯びてくる。売却は企業価値向上のための決断だったのか―。
株主還元の裏に何があったのか
2025年3月期決算において、6期連続の経常赤字を計上した城山観光(株)が、(株)モリナガの売却による特別利益を原資に、5期ぶりとなる復配に踏み切った。配当は60周年記念配当を含む1株あたり6円で、総額360万円。本業が赤字のまま、なぜ株主への利益還元を優先したのか―。その是非をめぐっては、株主総会に先立ち、株主の小正醸造(株)の会長が提出した事前質問状でも厳しい疑問が投げかけられていた。
とりわけ問題視されたのは、金融機関との契約にある「2期連続で経常損益を損失としないこと」という財務制限条項に違反している状態での配当決定である。6月25日に開かれた定時株主総会でも「本業が黒字化していないのに、配当は早すぎる」との意見が出た。これに対し、城山観光側は「償却前損益は黒字化しており、金融機関にも説明し了承を得ている」などと説明したが、明確な根拠には乏しく、説得力を欠いた。最終的に議案は賛成多数で可決されたものの、「内部留保に回してほしい」という声は容れられなかった。
「配当額が小さいため、反対するほどではない」との投資家心理に乗じたような側面も否定できない。財界関係者は「経営者なら誰もが疑問を抱く不可解な行為」とし、「賛成した株主は事態の重大さを理解していない可能性がある」と城山観光の将来を案ずる。
6期連続赤字が物語る構造的な疲弊
18年3月期までは80億円台中盤から後半で推移していた城山観光の売上高は19年3月期に約92億円を叩き出す。NHK大河ドラマ『西郷どん』の放送効果だ。営業損益は前期の1億844万円の赤字から9,063万円の黒字に転じた。しかし、外部環境頼みの好調は長続きせず、翌20年3月期には反動減で売上高80億円を割り込んだ。再度営業赤字に転落し、その額は6億円を超えた。
その後はコロナ禍が直撃し、21年3月期には売上高が37億円台まで激減、同年の営業損失は31億円超に達した。コロナ収束後も回復は限定的で、25年まで営業・経常いずれの損益も赤字が続き、25年3月期で6期連続の赤字となっている。耐震対策やコロナ禍もありこの間に借入金は膨張し、18年の約95億円から一時は200億円近くに達した。今回のモリナガ売却代金などを返済に充てたが、25年3月期末でも168億円と売上高の2倍におよんでいる。
見かけの黒字と計画未達が示す本業限界
25年3月期の売上高85億2,270万円は、コロナ禍前の水準に匹敵する。営業赤字6,212万円、経常赤字1億4,886万円と赤字幅の大幅削減を遂げてはいる。そしてモリナガの売却によって最終黒字17億3,207万円を上げた。
償却前利益は黒字に転じていると主張するが、事業の内訳をみると楽観できない状況にある。4部門のうち宴会・会議部門と宿泊部門は前期を上回ったものの、宿泊部門は計画を下回る売上高26億6,600万円にとどまった。
また、レストラン、ショップの2部門はいずれも減収を余儀なくされている。とくにレストランは2年連続の減収となり、頭打ちに陥っている。採算性改善要因で目につくのは増収の一方で売上原価、販管費とも削減をはたしていること。テニス部や福岡営業所廃止は妥当な措置だろう。
注目したいのはビルメンテナンスや清掃、リネン代など外注費を3,000万円削減していることだ。コスト増が社会を覆うなか下請業者に価格転嫁どころか値下げを実施するほど切迫していることが示されている。人件費も1億6,000万円削減した。従業員は前年より8名減少し491名になったことを鑑みると不自然ではない。
ただし、一定の賞与が給付されたとの指摘もあるが、実質賃金の下落が続くなか子会社売却益を株主還元に回す原資があるのであれば、厳しい事業環境下で現場を支え続ける従業員にも還元すべきだろう。こうした状況下での配当だけに、一部株主が配当に異を唱えるとは当然の流れといえる。
私的整理を機に株主構成変化
城山観光は過去、私的整理を行った経緯がある。06年、遊休不動産を数多く保有していた城山観光は、金融危機を契機に私的整理を実施した。創業家が保有していた株式は無償償却され新たに銀行や地元財界14者が株主となった。その結果、過半数を所有する株主は存在せず、最も比率の高い創業家でも20%しか保有していない。取引先の日本管財(株)(東京都中央区)が2番目に多い16%、鹿児島銀行系の鹿児島ビル不動産(株)が9%と続き、他11名はすべて5%にとどまっている。ただし、鹿児島銀行は、九州ファイナンシャルグループ、鹿児島ビル不動産を合わせるとグループでは19%を保有している。
地場財界が株主になった経緯はどういうものだったのか。小正醸造・小正会長は「鹿児島銀行の当時の役員(のちの頭取)と担当者から引き受けてもらえないか」という打診があったことを指摘している。さらに「いずれ創業家にお返しするもの」との説明もあったという。
小正氏は「そういうことならば、お預かりしておきます」として引き受けを決意したと話す。小正氏は将来の株式返却を前提とした一時的な引き受けだったことをあげ、「鹿児島の財産である城山ホテルを守らなければならない。誰かが私物化してはいけない」と強調する。
(つづく)
【鹿島譲二】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:矢野隆一
所在地:鹿児島市新照院町41-1
設 立:1968年4月
資本金:3,000万円
売上高:(25/3)85億2,270万円