2024年11月05日( 火 )

リゾート運営の達人が日本旅館を世界へ(後)

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星野リゾート(株)

ANAクラウン取得で初めて都市部に進出

ana 外資系ホテルが進出する業界構造の変化に対応し、全国展開に踏み切った佳路氏は、経営難に陥ったリゾートホテルやスキー場の再生に手腕を発揮。今では「リゾート再生請負人」の異名を持つようになり、世間から大きな注目を浴びる経営者となった。インドネシア・バリ島など海外にも進出し、グローバル規模で高級旅館やリゾート施設を展開している。

 同社の2015年11月期の売上高は441億円(前期比13%増)となり、父の代には20億円ほどだったものが20倍以上に伸びた。同年7月、世界最大のホテルチェーンである英インターコンチネンタル・ホテルズ・グループ(IHG)と、ANAホールディングスの共同出資会社、IHG・ANA・ホテルズグループジャパンが展開する「ANAクラウンプラザホテル」のうち、米モルガン・スタンレー子会社の投資ファンドが持つ4棟を計約400億円で取得し、話題を呼んだ。それまで地方の観光地を中心に事業を展開していた星野リゾートが、最大規模の投資で初めて都市部進出を果たしたからだ。

 従来の富裕層を狙った温泉地の旅館に加え、交通の便が良く手軽に観光を楽しめる都市部ホテルで、ファミリー層を取り込み新たな収益源にするという大胆な手に打って出たのだ。また、訪日外国人の増加で地方のホテル需給が逼迫すると判断し、ビジネス利用が多いホテルを活用し需要を取り込むという目論見もあった。福岡市のほか、石川県金沢市、広島市、富山市のホテルを取得。いずれも客室数は約250~400の地域でも上位ランクのホテルで、駅などのターミナルから徒歩10分程度の圏内という利便性の高い場所だ。

 今のところ、ファンドからは経営権だけ取得し、運営は従来通りIHG・ANA・ホテルズが続けている。いずれは自社ブランド化も計画している様子。いずれにせよ、同社の方向性の1つに地方の観光地から都市部へという図式が加わった。かつては破綻した地方のリゾートホテルや旅館を安く買い叩き再生するのが基本戦略だったが、ついにその殻を破ったのだ。

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 同社の従業員はすでに2,000人以上だが、今後は18年度までの3年間で大学生などの新卒採用を1,000人にする計画。過去3年の実績に比べて5割増しだという。現在、学生には入社に向けて短期留学などの経験を積んでもらったり、現場教育の負担を分散するため、13年度新卒採用から入社時期の自由選択制度を導入した。16年度は約270人で過去最多。17年度は340人、18年度は380人を採り、従業員総数3,000人以上になる計画だ。

 同社の顧客との窓口で肝となるのが、沖縄県に拠点を置き、宿泊予約や問い合わせの電話を受け付けるコンタクトセンターの役割を担う「統合予約センター」だ。顧客との最初の接点となるため、同社の全施設を熟知したスタッフが館内の設備や料理の内容について、きめ細かに案内している。そんなスタッフが出産や育児、介護などのライフイベントを迎えてセンターに来られなくなった場合でも在宅勤務ができる制度をつくった。それを支える基盤として、NTTコミュニケーションズのクラウド型構内交換機(PBX)サービスを導入し、今年7月から運用を始め、コンシェルジュ業務を在宅スタッフが電話応対できる環境を整えた。

 これまで本拠である軽井沢をはじめ箱根、熱海、京都など日本情緒あふれる地で手厚い接客サービスを売り物にしてきた同社。むやみに部屋数を追うのではなく、高級感と希少性を演出してきたが、観光客は温泉地の旅館から都市部のホテルにシフトしているという事実もある。そこに危機感を覚えており、今後も伸びる余地のある都市型ホテルの進出を強化する一方で、試金石となる「星のや東京」が成功すれば、日本旅館の良さを世界に広めていくことになる。

(了)
【大根田 康介】

 
(中)

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