2024年12月26日( 木 )

金正男毒殺は北朝鮮の仕業?(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 それでは、まず金正男(キム・ジョンナム)氏について、予備知識を持とう。

 金正男氏は、北朝鮮の故・金正日(キム・ジョンイル)総書記の長男であり、現在の北朝鮮の指導者・金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄である。過去、東京ディズニーランドに行こうとして、偽造パスポートを使って入国しようとしたが、成田空港で逮捕されてマカオに追放されたことで、日本では知られた人物である。そしてこのことで、父である故・金正日氏の怒りを買い、後継者コースから外されたと言われている。

 金正男氏は1971年5月に、平壌で生まれた。母親は北朝鮮の映画女優で最も有名であった成蕙琳(ソン・ヘリム)氏だった。成氏の父は、朝鮮戦争中に韓国から北朝鮮に移住した人物だ。
 金正男氏は79年からの10年間を外国で暮らすことになり、海外で学校に通うことになる。ロシアとスイスに滞在して勉強をしたため、正男氏は英語とフランス語を流暢に話すことができた。外の世界を多く経験した金正男氏は、後継者になることへの関心よりも外への関心のほうが高かった。また、外の世界と違っていた北朝鮮の体制にも不満があり、体制への疑問を持つようになることが多かったという。しかし、正男氏は長男だけに、金正日氏にはとても寵愛されていたようだ。
 ところが、金正日氏は正男氏の母親とは別に、大阪生まれの在日朝鮮人で、万寿台芸術団の一員だった高英姫(コ・ヨンヒ)氏と交際を始める。金正日氏は、高氏との間には3人の子どもをもうけた。3人のなかの真ん中の次男が、現在の北朝鮮の最高実力者である金正恩・朝鮮労働党委員長だ。

 兄弟喧嘩の種は、このとき蒔かれた。高氏は政治に関心が高く、視察などにも積極的に同行したりした。息子を後継者にするために熱心であった。それが功を奏して、今、次男は北朝鮮の最高指導者になっている。
 その反面、海外生活が多かった金正男氏は、北朝鮮の上層部に権力基盤をつくることができなかった。ある意味、金正恩氏のライバルになれない存在であった。唯一、北朝鮮内で頼りにできるのは、金正男氏をかばってきた叔父の張成沢(チャン・ソンテク)氏であった。ところが張氏も2013年、金正恩氏の逆鱗にふれ、処刑されてしまった。金正男氏はさらに窮地に追い込まれ、中国と東南アジア、ヨーロッパなどを転々とした。

 それでは、なぜ北朝鮮は金正男を毒殺したのだろうか。1つ目には、中国に対する不満の表れである。
 中国にもいろいろな勢力があるが、今の習近平政権は金正恩氏とまだ会ってもいないし、快く思っていない。ミサイル発射などの問題で中国をてこずらせているし、言うことをよく聞かないからだ。今の中国政権では、暴走を続ける北朝鮮の首をすげ替える必要さえ感じているようだ。その際に、候補になれるのが金正男氏である。金正恩氏からすれば、血を分けた兄弟であっても、そのような可能性の芽を摘む必要があったのだろう。と同時に、中国への不満の表示である。

 それに正男氏は、北朝鮮の初代最高指導者であり祖父である金日成(キム・イルソン)氏に会っているし、祖父に認められた存在であるが、金正恩氏は会ったことがない。そのことに対するコンプレックスを抱えていたようだ。

 金正男氏は去る2010年にも、北京で北朝鮮の暗殺要員に襲われたが、間一髪で難を逃れたことがある。北朝鮮は目的のためなら、どんなことでも手段を選ばないということを全世界に知らしめた事件である。

 北朝鮮は1983年、ビルマ(現在のミャンマー)でも爆弾テロで韓国の政治家数人の命を奪っている。今回の金正男氏の殺害も、まだ事件は捜査中ではあるが、北朝鮮がやすやすと犯人の引き渡しに応じない公算も高く、場合によっては真相解明に時間がかかるかもしれない。しかし、いろいろな状況からして、これは北朝鮮の仕業であることは間違いない。
 北朝鮮は、空港という公の場で化学兵器を使うことによって、北朝鮮はこのような恐ろしい化学兵器を持っていることを全世界にアピールしたかったのかもしれない。

(了)

 
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