久留米市・欠陥マンション裁判1審判決、構造設計の専門家の見解は?(後)
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弱者を踏みにじる巨大権力との闘い
――横浜市で、傾斜したマンションが全国的に話題を集めました。「新生マンション花畑西」における鹿島建設の施工ミスとは性質が異なるのでしょうか?
仲盛 横浜市のマンションは、杭の施工の偽装が原因で傾きました。分譲業者である三井不動産レジデンシャルは、400億円を掛けて建替えることを決定しました。その後の経過が週刊誌などで報道されていますが、三井不動産レジデンシャルは、施工業者の三井住友建設に、三井住友建設は下請の日立ハイテクノロジーズと旭化成建材に責任と費用負担を押し付けており、さらに旭化成建材の下請、孫請に押しつけられるであろうという内容でした。
「新生マンション花畑西」においても、鹿島建設は、下請となった地場の栗木工務店に対し、「栗木工務店の施工がデタラメだったから、補修が必要だった。損害を賠償せよ」という内容の損害賠償を提訴しました。その一方で、区分所有者から提訴されると、コンクリートのかぶり厚不足や、梁を施工していないなどの手抜きとも思われる工事を棚に上げ、「図面どおりに施工しただけ」と、突っぱねる主張をしています。
本件にしても、横浜のマンションの件にしても、鹿島、三井、日立、旭化成といった、日本を代表する大企業や関連会社が責任を放棄し、弱者を見捨てるという構図です。しかも本件の場合は、さらに行政が加担しているのです。
これら巨大権力に対し、善良な市民は太刀打ちできず、泣き寝入りさせられることが多いようです。私どもは建築および構造の専門家としての使命感を持ち、耐震強度不足の建物に居住を余儀なくされ、不安な日々を送るマンション居住者たちから依頼を受け、建築基準法に基づく客観的で工学的な主張を積み上げ、巨大権力を相手にこの裁判を戦っています。
――判決が、設計事務所の瑕疵を認めた場合、久留米市に対する訴訟の1審判決との関係は、どうなるのでしょうか。
仲盛 これは、やや複雑な話になります。知人の法務関係者の、あくまでも個人的見解ではありますが、それによると、設計事務所の瑕疵を認める判決が確定した場合、設計に耐震偽装の瑕疵があることがあらためて証明されたことにもなります。この判決内容を「控訴している福岡高裁」に提示すれば、久留米市側の立ち位置は「論理的矛盾」に陥ると考えられます。よって、久留米市との控訴審も閉じられると考えるのが自然だということです。
ここに、1審判決で触れられなかった、久留米市の“建築確認の不備・過失”が、あらためて争点として浮かび上がります。控訴で一旦凍結している久留米市との裁判の判決が、木村建築らとの裁判の判決確定により、全面解凍される結果となるわけです。
このことにより、久留米市が行った建築確認の審査において、大きなミスがあったことが合理的に立証されると思います。技術的ミスが立証されることを最も理解しているのは久留米市であり、それ故に、1審の判決を受けても、喜びのコメントを控え、静観せざるを得ないのでしょう。これは、鹿島建設についても同じです。たとえるなら、買い物をして、お釣りを多く貰ったことを認識していながら、店側にそれを告げずに黙って持ち帰るようなものです
――設計や施工の瑕疵が認められた場合、提携住宅ローンを組んだ金融機関の責任は問われないのでしょうか。
仲盛 このマンションの分譲時の住宅ローンは、地場の銀行2行が引き受けています。ローン設定時には、問題が発覚していなかったとしても、結果として耐震偽装され、強度も価値もないマンションに数千万円のローンを組ませたことになるのですから、提携金融機関に対しても、「抗弁権の接続」的な賠償請求もできるのではないかと、知人の法務関係者は語っています。
――久留米市が建築確認で偽装を見逃したことや、建物としての価値がないことで、固定資産税の見直しはされないのでしょうか。
仲盛 その件に関して、知人の法務関係者に問い合わせをしたことがあります。固定資産税は、「耐震強度が適法状態であることを前提としている」と久留米市自身が説明しているので、耐震強度がなく資産価値がないのであれば当然、税額の見直しができ、これまで徴収された分(時効期間7年)の返還もあり得るのではないかとの見解でした。
――ところで、東京の豊洲新市場においても、日建設計による柱脚の係数の偽装があったと聞きましたが、このマンションの構造計算と同じ手口の偽装なのでしょうか。
仲盛 東京の豊洲新市場の件は、久留米のマンションの裁判と直接関係ないので、ここでは、お答えできません。別の機会に、お話させていただきたいと思います。
――失礼しました。今後の仲盛さんご自身の活動について教えていただけますか。
仲盛 耐震偽装に関する建築紛争は、近年全国で発生しており、大半は、被害者であるユーザーが泣き寝入りさせられているようです。私は、法律の専門家ではないので、建築以外の法的なことについては、それほど詳しい訳ではありませんが、建築構造に関しては長年の経験と実績を持っており、さらに、建築紛争に関わってきた特別な経験もあります。それら私の経験が活かせる場があれば、力を尽くしていきたいと考えています。
(了)
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