2024年12月24日( 火 )

軽い言葉、誰も責任をとらないこの国で~籠池夫妻逮捕に思う

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疑惑の舞台となった、瑞穂の國記念小学校

 7月31日、大阪地検特捜部は、学校法人森友学園の籠池(かごいけ)泰典・前理事長(64)と、妻で「塚本幼稚園」の諄子(じゅんこ)・元副園長(60)を逮捕した。
※塚本幼稚園は森友学園が運営する幼稚園

 逃亡の恐れもない老夫婦を、あえて逮捕する必然性がどこにあるのか。今回の逮捕は裏切り者に対する報復であり、役に立たなくなった「お友だち」がどう処遇されるのか、安倍晋三首相の冷酷な人間性の一端を如実に示している。

 逮捕容疑は「詐欺」だという。国の補助金を不正に受給したことが詐欺にあたると、大阪地検特捜部は判断したのだ。

 企業のコンプライアンスに詳しい、元検事で弁護士の郷原信郎氏が指摘しているが、特別法(補助金適正化法違反)よりも一般法(詐欺罪)を優先して適用したことは「小学生レベル」の間違いであり、常識はずれの暴挙だ。郷原氏は、森友学園側が補助金を全額返還していることにも触れ、「過去の事例を見ても、よほど多額の補助金不正受給でなければ、全額返還済みの事案で起訴された例はない」とも指摘する(検察はなぜ”常識外れの籠池夫妻逮捕”に至ったのか8月1日付)。
 さらに、特捜部が「逮捕」という判断を下したことについては、逮捕要件である「逃亡のおそれ」や「罪証隠滅のおそれ」が認められるのか疑問視する。7月27日に「罪証隠滅のおそれ」がないと判断して帰宅させたのに、その4日後に「逮捕」という不合理さは、逮捕ありきの恣意的判断が行われたことの証ではないか。

 要するに、籠池夫妻は一線を越えてしまったのだ。

 自民党が歴史的大敗を喫した今月の東京都議選の投票前日(7月1日)、安倍首相は自身にとって「ホーム」ともいえる秋葉原でマイクを握った。秋葉原は、自民党が街宣を行う際に「聖地」と呼ぶほど相性のいい場所だ。しかし、この日は違った様相を見せる。

 「安倍やめろ!」。巨大は横断幕を掲げる、人々のうねり。「安倍政権ふざけるな!」「帰れ!」。シュプレヒコールが響き渡るなか、騒然とする街宣会場に突然現れたのが、籠池夫妻だった。

 安倍首相夫人の昭恵氏から預かっている100万円を返すため、と言いつつ、安倍首相に向かって「本当のことを言え!」と叫ぶ籠池氏。妻の諄子さんは、押収されたという携帯電話を「返せー!」などと絶叫。「安倍の人殺し!」までエスカレートしていく。(動画

 安倍首相とその周辺は、このとき決めたのであろう。「こいつらは、なにをするかわからない」と。

大阪府内北部の住宅地に建つ、籠池氏の自宅

 今回の逮捕は、学校建設にまつわる補助金の不正受給にまつわる詐欺が主な容疑だが、森友学園疑惑の本丸は国有地を大幅に値引きして払い下げたことにある。次々と明らかになる、昭恵夫人の奔放な言動や森友学園との親密な関係だけをみても、「(森友学園の疑惑について)私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と発言した責任をとるべきだ。言質をとったにもかかわらず退陣を迫る動きがなかったのは、与野党含めた政治家の言葉がいかに軽くなっているかの証左だろう。

 ところで、籠池夫妻が当初開校しようとしていた小学校の名前は、「安倍晋三記念小学校」というドストレートなものだった。しばし言葉を失う独特の響き。「日本を取り戻す」という割には、日本人的謙譲の精神からほど遠いずうずうしさだと思うのだが、いかがだろうか。

 籠池夫妻に群がった右翼、保守派たちは、日本の何を「取り戻す」とはしゃいでいたのか。金銭的に世話になったにもかかわらず手のひらを返す破廉恥さか、平気で嘘を繰り返す厚顔無恥ぶりか。彼らは錦の御旗のように「70余年前に散った英霊たち」に言及するが、当時の若者たちが命をかけて守ろうとしたものが今の日本の姿だと本気で考えているのなら、「恥を知れ」と言っておきたい。

【小山田 浩介】

 

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