2024年12月24日( 火 )

文明国・日本に「奴隷制度」が存在する?(後)

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(一財)DEVNET JAPAN 明川文保 代表理事

就労目的の新興国からの「偽装留学生」が今問題に

 ――11月1日に施行される「技能実習法」は現行制度に比べてかなり進んだものだという印象を受けます。先生は新法実施で、日本で働く外国人労働者の待遇はかなり改善されるとお考えですか。

 明川 日本には現在、約108万4,000人の外国人労働者がいます。(「外国人雇用状況の届出状況(厚生労働省16年10月現在)」その内訳(働く分類)は、(1)就労目的で在留が認められる者20万1,000万人、(2)身分に基づき在留する者41万3,000人、(3)技能実習をする者21万1,000人(「団体監理型」の他に「企業単独型」も含む)、(4)特定活動する者1万9,000人、(5)資格外活動をする者24万人(「留学生のアルバイト等」)となっています。

 外国人労働者という括りから言えば(4)資格外活動をする者のうちの「偽装留学生」(出稼ぎ・就労目的で入国)も「技能実習生」と並んで今大きな問題になっています。日本社会、とくにサービス業が彼らの労働力を必要とするのに加え、「留学生30万人計画」実現のために、ビザの発給が乱発に近くなっているからです。今後はこの問題についても大きな改善が望まれます。

約2,000ある監理団体の約半数は淘汰され、改善へ

(一財)DEVNET JAPAN 明川文保 代表理事

 さて、話を技能実習生の問題に戻します。新法施行で恐らく、今約2,000ある監理団体の約半数は淘汰され、残った団体も何らかの形で、改善へ向かうと思われます。その兆候も見られています。

 「外国人技能実習機構」は新法施行に先駆けて活動を開始、技能実習生に対する人権侵害行為の内部通報が多発していた福井県を調査しました。その結果は、当該監理団体の多くが許可基準を満たしていなかったという報告を聞いています。続いて、同じく内部通報の多かった岐阜県の実地調査にも入りました。

 また、ある地方自治体の農協が技能実習を止めるという話も入ってきました。現行では、農協が窓口・監理団体となり農家に技能実習生を労働派遣しています。しかし、農家には「36協定」(※)の観念がもともとなく、残業代、休日出勤手当等は支払われていませんでした。新法施行でそのような監理団体は許可の取り消し、実習実施者は業務停止など事実上の活動ができなくなります。これは、全国の農協に共通して言えることで、むしろ今まで見過ごされてきた(労働法違反)ことが驚きです。

アジア各国でも首都近郊は割のいい仕事が溢れている

 ――今回のお話は一部の“ブラック”な監理団体や実習実施者だけでなく日本の国益を損ねるものです。現代は、グローバル化によって、モノ(物流)だけでなく、ヒト(人材確保)も国境を越えて争奪戦になる「国際労働力移動」の時代です。日本へのネガティブな見方を、国際労働市場に蔓延させ、質の高い労働力の確保ができなくなることを心配します。

 明川 おっしゃる通りです。日本へのネガティブな見方はじわじわと拡がりつつあります。北京オリンピックを境にして中国からの技能実習生は激減しました。北京や上海といった沿岸部の大都市では、日本との賃金差がなくなり、日本に働きに来るメリットはもはやありません。今、技能実習生や留学生が急増しているのは、新興国のベトナム、ネパール、スリランカ、ミャンマーなどです。とくにベトナムは人口がまもなく1億人を超えます。一方で、中国と同じ社会主義国のため、送り出し国と受け入れ国・日本の「悪の連鎖」の再現が心配されています。

 すでにアジア各国でも首都近郊は、日本で技能実習するより格段に割のいい仕事が溢れています。韓国は、送り出し国と受入国・韓国との「2国間協定」を結び、その協定を担保した人材だけを確保しています。日本以上に外国人を処遇して、外国人労働者を増やしています。またベトナムやミャンマー、カンボジアなどから工業化を遂げたタイの工場に出稼ぎに行く労働者が増え始めました。外国人労働者が置かれた立場や彼らを守る制度を比較すると、日本はアジア各国と比較しても、大きく後れをとっています。

 私どもDEVNET傘下の組織WINNER(女性起業家強化ネットワーク)では、国連のモデルケースとして、フィリピンに病気撲滅、貧困救済、女性の地位向上を目的に、政府協力のもと「看護師」、「介護士」、「家政婦」などを養成するための学校を作りました。フィリピン女性にまつわる「水商売」、「麻薬」、「売春」などは過去の話で、今では約60万人が、中近東やアジアの病院や介護施設などで、仕事に誇りを持って働き、本国の家族に送金、国家のGDPにも貢献しています。

日本人は外国人と共生していくことに不得手ではない

 ――日本が頑なに「移民」を受け入れない立場をとっていることが、期限付きでしか労働者を確保できず、「技能実習生」や「留学生」における、制度と実態の乖離を生んでいます。昨今は、識者だけでなく、現場経営者からも「「労働者」として受け入れた方がいいのではないか」と、という意見も出始めました。先生は「移民」についてはどのようにお考えですか。

 明川 移民の問題はなかなか難しい問題です。国内総生産の落ち込みを防ぐことができる大きなプラスの面がある一方で、日本人の雇用が奪われるとか、治安の悪化が懸念されるなどのマイナス面も指摘されています。しかし、「技能実習生」や「留学生」という言葉を隠れ蓑にして、問題解決を先延ばしする(「労働者」としての来日を認めない等)ことは結果的に大きなマイナスにつながることを懸念しています。
 なぜならば、彼らはもちろん「被害者」なのですが、不法就労・失踪や多額の借金を抱えて、犯罪者「加害者」になるケースも増えているからです。

 歴史をはるか昔に遡れば、大和朝廷は先進的な技術・文化を持つ外国人を積極的に受け入れ、帰化人はどんどん増えました。とくに、百済の滅亡時(660年頃)には王族貴族と共に数千の百済人が日本に亡命したとも言われています。有名なのは奈良時代で、外国人の割合(人口比)が歴史上一番多かったと言われています。日本人は、外国人と共生していくことは決して不得手ではないのです。

 ――本日はお忙しいなか、ありがとうございました。

(了)
【金木 亮憲】

※36協定:労働基準法第36条では「労働者は法定労働時間(1日8時間1週40時間)を超えて労働させる場合や、休日労働をさせる場合には、あらかじめ労働組合と使用者で書面による協定を締結しなければならない」と定めている。

<プロフィール>
明川文保(あけがわ ふみやす)
山口県美祢市生まれ。1973年山口県防府市に日本初の冷凍冷蔵庫・普通倉庫を備えた3温度対応の総合流通センターを開設(コールドチェーン物流の先駆け)した。第56・57代内閣総理大臣を歴任した岸信介氏の後援会青年部会長、83年衆議院議員安倍晋太郎 私設特別秘書、88年九州山口経済連合会の国際交流委員・運輸通信委員・農林水産委員、04年参議院議員福島啓史郎氏全国広域後援会本部特別顧問・特別秘書、06年DEVNETアジア・太平洋地域特別親善大使及びラオス・カンボジア・ベトナム地区総裁、09年上海万博DEVNET館特別顧問、11年東久邇宮国際文化褒賞記念会設立 代表理事などの要職を歴任した。13年DEVNET Tokyoを設立して代表理事に就任、15年「ミラノ万博」国連KIPパビリオンに日本代表として出展。同年DEVNET JAPANに改名。同組織は16年にアジア(一部地域を除く)代表オフィスに認定。

 
(中)

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