東京中心の文化は終わった 今こそ本当の地域力を磨こう(前)
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地方に本拠を置く劇団でありながら、観客動員数は劇団四季、宝塚歌劇に次いで日本では3位。60年を超える長い歴史の中で培われた演技の力を、人材育成の方面にも生かそうとしているわらび座の山川龍巳社長に、地方で劇団を続ける意味とこれからの地方のあり方、さらにインバウンドの時代に地方が生きる術についてうかがった。
一流の舞台人も驚くわらび座のクオリティ
――わらび座のミュージカル「ハルらんらん」、拝見いたしました。歌もダンスも演技も、すべて高いレベルで驚きました。
山川社長(以下、山川) ありがとうございます。歌がうまいけど演技はいまひとつ、とかダンスはできるけど歌は、という役者さんはいますが、三拍子そろった俳優はなかなかいない。これは各人の努力の結晶でもあり、わらび座という環境が育てたものだとも思っています。いってみれば、地方創生がうちの俳優陣を高いレベルに育てたのだともいえるでしょう。東京から呼ぶ舞台監督や脚本家が、うちの俳優たちを見て「秋田にこれほどのレベルの俳優がいるのか」って驚きますからね。
これまでは「劇場文化は、東京や大阪のような大都市でなければ成立しない」と言われてきました。しかし現在は、地方でも劇場やほかの芸術、文化がビジネスになるチャンスが生まれてきた、と思っています。かつて地方では東京で流行するもの、東京から来たものでないと価値がないと思っていました。自分たちも若いころは、「夢は東京にしかない」と思っていましたよ。
――極端に言えば、東京に出られるのは成功者、地元に残るのは敗残者というイメージがありました。
山川 しかし、今やこれまでのそういう常識はなくなったと思っています。なによりも、そういう文化の形は東京に劣等感を持つ子どもは生み出しても、地元に誇りを持つ子どもは育てない。本来これは難しいことではなくて、心のままに泣いたり笑ったりする子どもたちを、地域の中で育てていくことなんです。感情をそのままに表出するということは、人間が大好きでないとできないことです。そうした共感力を育てていく力を、地域で育てていく。ミュージカル「ハルらんらん」の中で、「(人間がお互いを思いやる)”情け”をなくしてしまったところが地獄なんだよ」というセリフがあります。地域社会のことを考えると、根本には”情け”があるかどうかだと思います。こんな古くからある考え方を、最新のクリエイティビティを使って見せられれば一番いいと思います。そうやって作った作品を、はっきりと評価を下される場に出していきたい。全国レベルでの評価は東京で下されますし、九州の場合は福岡です。ここで勝ちぬいていくには、新しいセンスが必要です。地域力を、新しいセンスを用いてクリエイティブに表現していく。これが求められる時代になってきています。
真のコミュニケーション力は聞く力、感じる力
――演劇という、古くからある表現手法を新しいセンスで更新していくということですね。
山川 もう1つ、新しく取り組もうとしていることに「演劇情動療法」があります。仙台の病院で実施されているもので、認知症患者のお年寄りに演劇の手法を用いたセッションを行います。認知症のお年寄りのグループに、子どもの頃に親から叱られたり褒められたりしたこと、つらかったこと楽しかったことをしゃべってもらいます。認知症の方は、最近のことは覚えていられませんが、こういう昔のことはいくらでも思い出してしゃべれる。しかし翌日になると、お年寄りは前日のことはきれいさっぱり忘れてしまっている。それでも、残っていることがあります。それは、楽しかった、よかったという感覚です。これが情動です。人間がなにかを見て「感動」する、その原点にあるのが情動の働きなのです。
さらにもうひとつ、コミュニケーション能力のあり方についても考えています。劇作家の平田オリザ氏は、コミュニケーション力のことを「空気を読む」とか「場を察する」能力ではなく、それぞれ生い立ちもバックグラウンドも何もかも違う同士をすり合わせることができる力だ、と言っています。しゃべる力や考える力よりも、聞く力、感じる力が必要になります。現代の便利な文明が、感じる力を大きく阻害してしまっている。これを取り戻す作業の中に、演劇コンテンツは非常に大きな役割を果たすことができると思っています。
現在、わらび座では「ヒューマンビジネス産業」を立ち上げようとしています。具体的には、職場や学校でのコミュニケーション力の向上です。演劇は、俳優同士がお互いのセリフや演技に反応しあって行うコミュニケーションです。この手法を、現実の生活にどう生かしていくか。すでに、会社の新人研修でワークショップを行うなど、実践も始まっています。
(つづく)
【文・構成 深水 央】※本記事は2017年1月6日にNETIB-NEWSで掲載したものです。
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