2024年11月24日( 日 )

アイランドシティを舞台に新たな疑惑(1)~Little Japan

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 福岡アイランドシティがまだ人工島と呼ばれていたころ、同地は「疑惑の島」として注目を集めたことがある。博多港開発(株)が、土地利用計画決定前にケヤキや庭石を約10億円で購入した事件では11名が逮捕され、アイランドシティのイメージは地に墜ちた。そのアイランドシティでいま、土地活用をめぐる新たな疑惑が浮上している。いわくつきの人物が事業者に決定しただけでなく、事業計画についても実現性の乏しさが指摘されている。

不毛の土地

 今年11月のある日。革靴が未舗装の土を踏みしめると、強い風に土埃が舞った。むきだしの土のすぐ脇は新しく舗装された片側2車線の自動車専用道路。道を挟んだ一画には、大きな流通センターと、新設された青果市場などの倉庫群が立ち並ぶ。その向こうには、うずたかく積まれたコンテナと、それを運ぶ重機がうなりをあげている。寂寥感漂う、どこか近未来的な風景。強い日差しと対照的に、何もさえぎるもののない平野を吹き抜ける風が、体温を奪うように肌を撫でる。

 南側が、ある程度生活の匂いがするのに比べ、記者が立つこの場所はまさに不毛の地だ。時折車の往来はあるものの、人の気配はほとんどなく、道路わきで暇を持て余す交通警備員以外、人の姿を見ることはできない。

 ここは、福岡市東区の和白沖を埋め立てて造られた人工島、「福岡アイランドシティ」のほぼ中心にあたる場所だ。いま、この場所の開発計画をめぐって福岡市と特定目的会社間で結ばれた事業計画について、ある疑惑が持ち上がっている。

特定目的会社が事業者に決定

ホテルの完成予想図

 問題の土地の地番は、「東区香椎照葉6丁目26番25号」および同27番21号、28番26号。06年ごろまでは「香椎浜3丁目」とされていた場所だ。総面積は約7万5,000m2(7.5ha)で、そのうち約6.7haを福岡市、残りを博多港開発(株)が所有していた。ちなみに、埋立地は公の財産であり、さらに「公有水面埋立法」を根拠法として、埋立地に関する権利が移転する場合は「公募が望ましい」とされている。

 福岡市は、同地を活用した事業を行う者を選定するために15年10月、「アイランドシティ・センター地区(7.5ha)事業提案公募方針」を発表した。同方針によると、09年に策定されたアイランドシティ事業計画に基づいて公募を行い、「商業開発などにおける優れた企画力・実行力のある事業者」を選定するとしている。市が企業誘致の切り札としてきた立地交付金30億円の条件としては、操業から10年間事業を継続することや延床面積の最低面積規定、常用雇用者の配置とともに、「立地交付金の認定申請を市長に提出した日から3年以内に操業開始すること」を定める(例外規定もあり)。

 同方針のもと、市は16年1月6日に公募要綱を発表。同年2月26日まで受け付けた事業提案書を基に、事業者によるプレゼン、各事業計画の評価委員会による審査を経て、5月30日に事業予定者を決定、6月1日に発表した。

 同公募には2件の応募があった。市に行った情報公開請求によると、応募したのはゴルフ練習場事業で実績のある市外に拠点を置くX社と、博多区に本社を置く旅行業(株)HEARTS(以下、ハーツ社)ほか数社で設立される特定目的会社(SPC)だった(応募時点では設立「予定」)。このときハーツ社陣営には、世界的に著名な外資系不動産サービス会社J社が、運営受託者として名を連ねている。

 ハーツ社陣営の事業計画は、明確にインバウンドマーケットを意識したものだった。400室を超える大型ホテルに、「Little Japan」と名付けた体験型エンターテインメント施設を併設、ショッピングモール「ぐりんモール」には大型免税店などのテナントを配置すると謳っている。「Little Japan」内に伝統的日本家屋を再現して、茶道や着物、歌舞伎に触れ合うことのできる空間を演出していることだけみても、インバウンドへの「特化」を打ち出している。

 評価委員会は、X社案について「商業施設としての魅力の乏しさ」などで厳しい点をつけ、総合評価は140点中93点にとどまった。一方、ハーツ社陣営の提案はインバウンドを対象にしていることやエンターテインメントゾーンなどが評価されて、106点を獲得。アイランドシティ・センター地区土地処分委員会の全会一致で、ハーツ社陣営SPCを事業者に決定した。

 総事業費は203億円を予定しており、土地の取得代金として福岡市に約73億円、博多港開発に約8億円が今年3月31日に支払われた。SPCは同月29日に、国内メガバンクの1つ(福岡支店)と70億円の金銭消費貸借契約を結んで融資を受けていた。取得代金が自己資金によるものかは不明だが、評価委員会は事業遂行能力を審査する過程でメガバンクが融資に前向きな姿勢であることを確認しており、融資された70億円を分譲地の取得にまわしたとみられる。

(つづく)
【特別取材班】

 
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