今、小売業に何が起きているのか チェーンストアの歴史と現在地(13)
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アメリカ・チェーンストア巡り ホールフーズ・規模拡大の問題と先進性の問題(前)
ジョン・マッケイはなぜホールフーズをアマゾンに売ったのか?
ホールフーズほどスーパーマーケットの質を変えた企業はその歴史上、稀である。1978年、ジョン・マッケイが25歳で創業したこのスーパーマーケットが志向したのは「わざわざの店」。オーガニックや環境保全、家畜の健全肥育など価格志向を無視した新しい経営戦略のアメリカの効率一辺倒のスーパーマーケットとは異質の経営手法で業界と顧客の注目のなかでM&Aを繰り返しながら成長を続け、現在はアメリカ、カナダ、イギリスに460店舗、年間売上高1億5,724万ドル(うち97%がアメリカ)で8万7,000人の従業員を雇用する。粗利率34.4%、経費率28.5%。粗利率は非食品も含むウォルマートより10%も高い。当然、その価格は「ホール・ペイチェック(財布丸ごと支払い)」といわれるように安くはない。
それでも、これまで順調に規模拡大を続けてきた。ところがここ数年、その数値に異変が起きている。既存店舗の伸びが7四半期連続で減少し、加えて原価率が1%ほど上昇、そのしわ寄せが経常利益率に響いたのである。
その結果、4年前に打ち出した1,200店舗構想を凍結し、合わせて9店舗の閉鎖を発表した。時を同じくしてヘッジファンドの物いう株主・ジェナパートナーズが9%の株式を取得、身売りを含む効率化を主張し始めた。もちろん、ジョン・マッケイは創業の精神と顧客、社員尊重の経営に重大な影響をおよぼすヘッジファンドの禿タカ的収奪手法と激しく対立する。アマゾンとの137億ドル(1株42ドル)M&Aもそのあたりの事情があったに違いない。
ホールフーズがこの数年業績低迷を続けた理由は複数ある。その1つはホールフーズの特徴であるオーガニックの分野に、クローガなどの大手スーパーが参入し始めたことにある。結果としてオーガニック分野の価格競合が発生する。食品購入に価格は関係ないという客層は、アメリカでも限られる。このような中でホールフーズの顧客の一部が競合店に流れたのである。
さらに大手が参入すれば有機商品は争奪戦となり、調達原価も上昇する。しかし、競合のなかでは原価上昇を売値に反映させるのは容易ではない。結果として粗利益率が下がる。
ホールフーズの1店舗あたりの売り上げは3,500万ドルである。これは2015年度より5.5%以上の減少である。これにはおそらく、クローガなどの大手スーパーがオーガニック食品に参入した影響だ。アメリカで始まった食品デフレの影響もあるだろう。
よく言われるように、スーパーマーケットの経費はほとんど固定費である。ホールフーズの平均店舗面積は1,100坪弱。結構な広さである。ホールフーズのように人で売り場と商品の付加価値を創造している企業では人的コストが高い。売上が減少したからといって、粗利率は簡単には高くできないから、坪あたりの売上の低下は致命的な結果につながる。
ちょうど1年ほど前、ホールフーズは主にミレニアム世代向けの365バイ・ホールフーズマーケットという新業態を発表した。従来店と違い、対面販売やオーガニック一辺倒をやめ、取り扱いアイテムも大きく減らして価格訴求に挑戦している。一見、なりふり構わない挑戦とも映る。しかし、おそらくうまくいかないだろう。
(つづく)
<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。関連記事
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