識者が考える「一帯一路」~日本ビジネスインテリジェンス協会が講演会開催
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「27周年記念・第158回ビジネスインテリジェンス情報研究会」が10日、新宿・安代ホール7階で開かれた。今回のテーマは「一帯一路」で5人の講師による講演が開かれた。この中から谷口誠(元国連大使、元OECD事務次長、元岩手県立大学学長)氏の講演、「『一帯一路』構想とアジアの将来」の要旨を紹介する。
「一帯一路」構想とアジアの将来(要旨)
1.「一帯一路」(One Belt ・ One Road)構想の目指すもの
(1)中国の習近平国家主席は、2013年に「一帯一路」構想を打ち出した。
(2)「一帯一路」は極めて中国的遠大な構想であり、私は当初より「一帯一路」は実現されれば中国が旧プレトン・ウッズ体制の下に築き上げられてきた欧米、とくに米国流の国際経済ルールを代える新しいルールに発展しかねない契機となるのではないかと考えていた。
(3)「一帯一路」構想は、私が参加していた2013年、14年頃より、中国の国際シンポジウムで議論されてきたが、最近の動きを見ると当初迂遠に見えた構造が次第に具体化しつつあり、かつての「シルク・ロード」の陸路を通じ、またさらに海路を通じ、中国から主として西に発展し、最終ターミナルを欧州とする構想であった。
(4)しかし、最近の傾向を見ると、中国の「一帯一路」構造は中東は含まれるとしても、アフリカ、さらにまだ具体化していないといっても南米まで及んでおり、これでは中国の「世界戦略」を目指すものといってもよい。
2.「一帯一路」構造への主要先進国の対応
(1)米国トランプ政権の対応
「アメリカ第一主義」(America First)をとるトランプ大統領は、米国が第2次大戦後とってきた「貿易自由化」政策を破棄し、米国を中心に構築してきた世界経済の秩序を崩壊させてしまった。この米国の無謀ともいえる政策は中国の大国化を助長し、中国の目指す世界戦略を助長しかねない。またトランプ政権は、去る3月23日、中国を始め日本を含め、数力国に対して鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税をかけた。これに対し、4月1日、中国も米国の123品目に対抗関税をかけることを決定し、米・中貿易戦争が開始されたといってもよい。この米中の貿易戦争をみていると、世界の経済ルールは崩壊しつつあり、世界経済の将来は不透明化しつつあると考えられる。米国経済が内向きになり、弱体化しつつある時、逆に中国が貿易の自由化を言い出し始めれば、第2次世界大戦後米国が主導してきた旧ブレトン・ウッズ体制、貿易自由化のGATT、WTO体制は崩壊する恐れがあろう。(2)日本の対応
日本は中国の「一帯一路」構想には、2013年当時から最近まで無関心であった。とくに中国が「一帯一路」構想を推進するために、設立したAIIB(アジア・インフラ投資銀行)にはいまだ参加していない。G7の国でAIIBに参加していないのは日本と米国のみであり、またアジアでAIIBに未参加は、日本、北朝鮮、ブータンの3力国のみである。日本のAIIBへの不参加の真の理由は、私の見るところ、(1)中国への対抗意識、(2)対米配慮、(3)日本と米国が主導するADBとの関係などにあると見られるが、外交的にはAIIBが透明性、公平性が満足されるならば、将来参加の可能性を検討してもよいとしていた。昨年5月、自民党の二階幹事長が中国の「一帯一路」会議に出席してから、安倍首相も「一帯一路」構造に協力してもよいと、前向きの発言をするようになったが、いまだに日本の対応は不明瞭である。(3)欧米諸国、とくにEUの対応
EUのフランス、ドイツなどの主要国はAIIBに参加し、すでに世界第二の経済大国となり、さらに2030年代には世界第1の経済大国に躍進するとみられる中国との関係強化に努めている。米国も中国の大国化への警戒心は強いが、AIIBにはかなり関心を示している向きもある。(4)ロシアの対応
ロシアは中国の「一帯一路」構想には国境を接している関係上、かなり警戒心が強いが、上海協力機構との関係もあり、対立関係にはない。3.結語 私の考える「一帯一路」構想とアジアの将来
(1)「一帯一路」構想は、一部の悲観論者がいうように多くの問題をかかえていても、中国は長期間かけてもなし遂げると考えられる。中国の歴史をみても、50年、100年は決して長い期間とはいえないだろう(例:親子3代にわたって揚子江の堰を構築した)。この点、日本はあまりにも物の考え方が短期的すぎないだろうか?
(2)2018年に日本は「自由で開かれたインド太平洋戦略」を打ち出した。これは安倍首相がかつて第一次安倍内閣の時に打ち出した「価値観」外交、「自由と繁栄の弧」の改訂版であり、一種の「中国封じ込め」政策ともとられかねない。またこの日本の戦略は具体的な内容がなく、構想といった方が適当であろう。
(3)そしてインドがこの日本の構想にのって中国封じ込め政策に協力することは考えられない。
(4)日本が現段階でとるべき最善の政策は、AIIBに参加し、「一帯一路」構想に具体的に協力することである。これにより日本と中国との信頼関係は醸成され、日中関係がさらに改善されることは、日中の経済関係の強化のみならず、アジアの平和と安定に資することになる。日中関係の好転は日朝関係の正常化にもつながってこよう。
(5)日米同盟は必要ではあっても、日本は地政的にはアジアの一国であり、日米同盟と日中関係とのバランスをとることが日本のとるべき戦略であろう。
(6)日本と中国がより強い絆を築くことができれば、21世紀は間違いなくアジアの世紀となろう。
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