2024年12月26日( 木 )

西日本フィナンシャルホールディングス、久保田勇夫会長新春経済講演会(10)

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日欧EPAの戦略的な意義

 それから日本に関してもう1つは、昨年12月8日に合意した日欧EPA(経済連携協定)です。予想外に早かったですね。やはり双方ともに戦略的に米国との関係も考慮した戦略が裹にあると思います。中身については、我が国からの自動車の関税の撤廃が8年後だとか、もう1つ大事なカラーアレビの関税の撤廃が6年後という話でして、日本にとって現段階で有利なのかはわかりません。しかし、お酒の関税が直ちにゼロになることは日本にとって良いことでしょうし、欧州から見ますとチーズやワインの関税の手直し、とくにチーズは現在の高い関税から一定枠だけであるけれども非常に低い税率にする。ワインの税率は直ちにゼロにする、ということになっていますので、メリットは多い。少なくともそのように見える、といえると思います。いずれにしても、経済的効果のほかに、戦略的意義も大きい合意であります。

 なお、脱線的に申し上げますと、こういう国際的な合意には戦略的な要素も絡みます。たとえば1989年にAPEC(アジア太平洋経済協力)が設立されましたが、これは日本が仕掛けたと言われています。当初アジアの中だけで議論が行われていたところ、米国が強いけん制球を投げてきて、それでは何とかしなければということで、これは本当のことだと思いますが、アジアだけでなく、米国、ペルーなどほかの太平洋沿岸諸国を加えてAPECをつくることを日本がまとめたと言われています。ただ、これをうまくまとめるために、オーストラリアに言い出してもらって創ったと言われています。
(注)議事録によると、講演当日私は「カナダ」と言ったようですが、これは「オーストラリア」の間違いです。

 あるいは1996年に創設されたASEM(アジア欧州会合)というアジアと欧州の首脳が集う会議があります。これも当時の世界情勢を勘案してアジアと欧州との関係を強めたほうがいいのではないかということで、たしかシンガポールのゴー・チョク・トン首相が提唱したものであります。これはASEAN(東南アジア諸国連合)プラス3、つまり日中韓3力国とEUの会合です。ちなみにその最初の成果であるASEMの関税局長・長官会議は日本が提案して創設したものであります。第1回目の会合を同年6月、当時国際化を強くアピールすることに努めていた中国の深センで開催しましたが、アジア代表は名実ともに日本の関税局長だった私であり、欧州代表はイタリアでしたが、事実上のとりまとめ役は英国のストラッカン長官でした。また、当時の中国はこういうことに慣れていませんでしたので、我が国はいろいろとお手伝いをしたものであります。そういうふうにして、実は通商交渉というのは、実態の話と戦略的な話といろいろあるということでございます。

(つづく)

 
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