2024年11月29日( 金 )

日本は周辺国家の「液状化」に飲み込まれる?! 政府与党は将来の国家像示せず(後)

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「鋼鉄の男」文在寅の韓国ではどうか。

 今年初めに韓国映画界でヒットしたのは「鋼鉄の雨」と題する北朝鮮ものだ。昨年12月に公開された。「クーデターにより怪我を負った最高指導者とともに、南へと脱出した北朝鮮のエリート工作員。指導者を守りきり、くすぶる戦争の火種を消し止めることはできるのか」。映画公式ページによると、このようなストーリーである。
 韓国映画の特徴は、時代をよく反映するということだ。逆にいえば、キワモノが多いということだ。この映画もその手の作品として、韓国映画史に記録されるだろう。この映画でいう「鋼鉄の雨」とは、米軍が保有する多連装ミサイルのことだ。このミサイルが北朝鮮各地を攻撃するシーンが売り物の反米愛国映画なのである。
 「鋼鉄」という異名で有名だった韓国人がいる。彼は1990年代に「主体思想派」と呼ばれる韓国学生運動の中心人物だった。「鋼鉄通信」で主体思想を大学街に広めた元ソウル大生だ。しかし北朝鮮に密航して金日成と会い、北朝鮮の実情を知るにつけ、転向した。韓国に亡命した故ファン・ジャンヨプ元書記と北朝鮮の民主化戦略を研究した。現在は北朝鮮の人権実現と民主化を促す運動に取り組んでいる。
 映画「鋼鉄の雨」がヒットしても、このような「鋼鉄の男」の動向は報道されないのが、今の韓国だ。
 北朝鮮は、南北首脳会談と米朝首脳会談の開催後、何ら非核化措置を取っていない。合同軍事演習を中止した米韓とは対照的である。北朝鮮は必要のなくなった核実験場の入り口を爆破する「ショー」を見せただけだ。

予測されていた危機

 OECD(経済協力開発機構)は、2060年の世界経済の展望を発表している。「中国とインドはいずれも米国を凌ぎ、世界の2大国としての地位を固めている。日本経済の世界経済に占める割合は、2011年の6.7%から3.2%に低下し、日本は経済小国に転落する」。
 念のためにいうと、これは2012年時点での予測なのである。事態の推移は、すでに明らかだったのに、何も手が打たれていなかったということだ。
 毎日新聞社説が「縮む日本社会」と題して、日本の将来に危機感を表明したのは、今年7月15日のことだ。このような社説を繰り返し掲載して、社会に警鐘を鳴らすべきであるが、他紙を含めてそうはならなかった。この社説はこう指摘した。
 「かつて経験したことのない勢いで日本の人口は減っていく。2053年ごろに1億人を割り、100年後には6,000万人から3,000万人台になると推定されている。江戸時代の日本は3,000万人国家だった。その程度の規模でゆったりと暮らせばいいではないか、と考える人もいるだろう。しかし、現代に生きる私たちは、年金や介護、子育てなどの社会保障がなければ暮らせない。鎖国の時代とは異なり、経済も安全保障も外国と絶えず影響し合っている。日本だけが急激な速度で人口が減っていけば、社会はその変化に耐えられなくなる」。
 こんなことは、何年も前からわかっていたことだ。9月に行われる自民党総裁銭で、候補者たちはどのような国家展望を示しうるのだろうか。

(了)

<プロフィール>
shimokawa下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。

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