小田急不の古民家活用プロジェクト

 築100年を超える古民家空き家を、新築住宅として再利用する本格的な取り組みが進んでいる。小田急不動産(株)(東京都渋谷区)は、全国の古民家を移築や再利用する「古民家移築再生プロジェクト」を開始した。その第1弾として5月31日、神奈川・開成町で古材を構造材として活用したモデルハウスをオープン。古民家を活用した新築注文住宅のオリジナルプランを展開する。「(環境や地域などに配慮した)エシカルな暮らしを志向する視点を持つ人がターゲット」(小田急不動産)としており、小田急線沿線を中心に年間5戸程度の受注を計画している。

構造材として合計26本の古材を梁に使用したモデルハウス
構造材として合計26本の古材を梁に使用したモデルハウス

ZEH化可能な住宅に再生

 神奈川県開成町のモデルハウスは、日本各地の良質な古民家を小田急沿線に移築・再利用できる仕組みの普及を目指す「KATARITSUGI(かたりつぎ)」プロジェクトの第1号物件。今回のプロジェクトを進めるに際して、古民家の再生・活用を手がける(一社)全国古民家再生協会(東京都千代田区、村田智仁理事長)と連携し、古民家を新築住宅に循環利用する仕組みを検討してきた。

 この仕組みは、全国古民家再生協会が古民家から古材を調達。小田急不動産は、古材を使用する注文住宅の顧客に対して、全国古民家再生協会に加盟している施工会社の紹介や、土地の仲介と販売を行う。また、小田急不動産と全国古民家再生協会が業務提携し、古民家の古材を使った注文住宅のオリジナルプランを作成した。

 オリジナルプランは、古民家の古材を使用して、現代の住宅に求められる断熱性能や耐震性能などを満たす木造軸組構法の注文住宅。杉の無垢材と古材を使用して落ち着いた室内空間を創造しながらも、太陽光発電システムなどを搭載することでZEHにすることも可能だ。ホームページに掲載している2つのプラン例では、坪単価が約140万円となっている。

 全国古民家再生協会の井上幸一氏は、古民家の再利用について大企業グループとの連携は全国でも初めての取り組みだとし、「約3年前から取り組んできた事業。木は江戸時代には当たり前のように移築・再生されてきた。昨今は残念ながら手間がかかるために、古民家の移築・再生がされてこなかった。小田急不動産と組むことで、性能評価があり、耐震性があり、デザイン性、間取りの良さも備えた移築・再生された建物が小田急線沿線に建っていく」と期待を込めた。

古民家を新築住宅に循環利用する仕組み
古民家を新築住宅に循環利用する仕組み

リビングに古材の梁

新潟県阿賀町に建っていた築約160年の古民家の構造躯体(提供=小田急不動産)
新潟県阿賀町に建っていた築約160年の古民家の構造躯体(提供=小田急不動産)

 小田急不動産が運営するモデルハウスは、新潟県阿賀町で築約160年の古民家の構造材を、リビングの大梁に使用した物件。建物面積は130m2、木造平屋建(建築基準法上は木造2階建)で、間取りは高さ5m、24.5帖のリビングと12帖と7帖の洋室、天井高2.7mで約14帖の小屋裏で構成されている。このモデルハウスを象徴する開放感あるリビングを見上げる位置に、古材の梁を現し(あらわし)で使用している。また、土間も最高天井高4m超と開放的で、リビングや勝手口、パントリーとつながる動線としている。

古民家オーナーの想いや家の物語をまとめた「家史」
古民家オーナーの想いや
家の物語をまとめた「家史」

    古材以外にも国産木材を積極的に使用して、木の良さをアピール。さらに、モデルハウスで古材として使用されている古民家の歴史や文化、家の物語を一冊にまとめた「家史(いえし)」を読んでもらい、顧客に古き良き暮らし方のイメージを膨らませてもらう。

 断熱性能は省エネ性能認定制度であるBELSで「断熱性能6」を満たし、省エネルギー性能も「☆☆☆☆」でZEH水準を取得。「屋根に太陽光発電パネルを搭載することができる強度なので、ZEHにすることも可能」(小田急不動産)だという。

 小田急不動産は、モデルハウスが建つ分譲地に合計3区画の土地を所有しており、モデルハウスを含めて将来的に建て売りとして古民家プランを販売することを検討している。

将来的にコミュニティも

 今回のプロジェクトの背景にあるのは、空き家問題だ。総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家率は13.8%で、賃貸や売却、別荘などの用途を除いた空き家の数が385万6,000戸もある。このうち、古民家は約102万戸(1950年以前に建築された戸建木造住宅の総数)もあり、小田急不動産では、古民家の古材を別の地域で活用できれば、次の世代へ古民家の歴史や所有者の想いをつなぎ、さまざまなかたちで地域と関わる関係人口の創出につながるとしている。

 古材は当面、阿賀町の古民家から調達する。今回のプロジェクトを通じて、地域住民の主入れが強く、利活用が難しかった古民家を都市部へ移築・再生する仕組みを構築。地域活性化を具体化するために、将来的には顧客やエシカルな住まい方に興味がある人などによるコミュニティ形成も図っていく考えだ。


<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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