JR久留米駅前に
市内最高層タワマン誕生へ
久留米市のもう1つの玄関口であるJR久留米駅でも、再整備が進んでいる。JR久留米駅は鹿児島本線と久大本線、さらには九州新幹線の3路線が乗り入れるほか、バスなども含めた交通結節点の機能を有する駅だ。だが、もともと西鉄久留米駅周辺などの中心市街地から距離があることもあり、駅周辺の開発がやや出遅れている感は否めず、同駅の乗降客数も7,404人(24年度1日平均)程度。前述の西鉄久留米駅に比べると、4分の1以下にとどまっている。
同駅周辺では、06年から「JR久留米駅前第一街区第一種市街地再開発事業」がスタートし、その核となるタワーマンション「ザ・ライオンズ久留米ウェリスタワー」(RC造(一部S造)・地上35階・地下1階建、総戸数297戸)が10年2月に竣工。また、九州新幹線の全線開業に合わせて11年に駅前広場再整備が行われるなど、駅前の都市基盤整備が進められてきた。だが、その一方で、老朽化した建築物が更新されないまま残されていたほか、一部に細分化された敷地も見られるなど、土地の高度利用と都市機能の更新が必要とされていた。
そうしたなか、13年3月に再開発準備組合が設立され、「JR久留米駅前第二街区第一種市街地再開発事業」がスタートした。JR久留米駅の駅前にあたる城南町の約1.3haで進められている同再開発事業は、「JR久留米駅前第二街区市街地再開発組合」を施行者として地権者が主体となって行う、都市再開発法に基づく市街地再開発事業である。土地の合理的かつ健全な高度利用を促進し、医療、商業等の都市機能の立地を誘導するとともに、久留米広域連携中枢都市圏内をはじめ県南地区の顔となる地域づくりに寄与することを目的としている。17年6月に都市計画決定告示がなされ、18年11月の再開発組合設立および事業計画の認可を経て、20年11月からは既存建物等の解体工事を着工。21年4月に施設建築物工事が着工した。
同事業では商業エリア(スーパー・飲食店など)や医療機関、駐車場、市営駐輪場を備えた多機能型の拠点づくりを進めていくが、その目玉は何といっても、市内最高層を謳うタワーマンション「久留米ザ・タワー レジデンシャル」だ。同タワマンは、大和ハウス工業(株)と(株)大京、三菱地所レジデンス(株)、西日本鉄道(株)の4社が共同で開発を進めており、敷地面積8,077.50m2に建つRC造(一部S造)地上36階・地下1階建で、総戸数は343戸。施工は(株)フジタ九州支店が担当し、27年5月の竣工を予定している。同タワマンの3階~9階部分は、(株)コスモスイニシアによるコンシェルジュサービス付きの分譲レジデンス「久留米ザ・タワー イニシアグラン」(総戸数115戸)となっているほか、同タワマンに隣接して、生活利便施設等が入居予定の地上2階建(屋上に駐車場)の店舗棟や、市営駐輪場棟もつくられる。
駅前における新たなランドマークとなり得る2棟目のタワマンの誕生により、JR久留米駅周辺も市中心部におけるもう1つの“核”となれるか、注目される。
中心部の各所でマンション開発が活発
なお、市内最高層のタワマン「久留米ザ・タワー レジデンシャル」が注目されているものの、それ以外にも現在、久留米市内のとくに中心部では複数のマンション開発が進行している。
天神町の西鉄久留米駅から徒歩3分の場所では、第一交通産業(株)による分譲マンション「ラコント西鉄久留米」が開発された。敷地面積654.52m2に建つRC造・地上15階建で、総戸数は56戸。24年1月に竣工済みで、設計・監理は(株)久保建築設計、施工は(株)赤尾組がそれぞれ担当した。
諏訪野町の西鉄久留米駅から徒歩6分の場所では、九電不動産(株)による分譲マンション「グランドオーク諏訪野町」の開発が進んでいる。敷地面積1,574.87m2に建つRC造・地上14階建で、総戸数は76戸。設計・監理をリーメック(株)が、施工を金子建設(株)がそれぞれ担当し、26年12月の竣工を予定している。
同じく諏訪町の西鉄久留米駅から徒歩15分、JR久大本線・南久留米駅から徒歩9分の場所では、大英産業(株)による分譲マンション「サンパーク諏訪野レジデンス」の開発が進んでいる。敷地面積2,063.18m2に建つRC造・地上14階建で、総戸数は55戸。設計・監理は(株)雅禧建築設計事務所が、施工は金子建設がそれぞれ担当し、27年5月の竣工を予定している。
西町の西鉄・花畑駅から徒歩8分の場所では、(株)アルシスホームによる分譲マンション「アルフィーネ久留米レガリア」の開発が進んでいる。敷地面積1,213.87m2に建つRC造・地上12階建で、総戸数は32戸。設計・監理および施工もアルシスホーム自らが担当し、27年2月の竣工を予定している。
通町の西鉄久留米駅から徒歩13分、JR久留米駅から徒歩16分の場所では、(株)コーセーアールイーによる分譲マンション「グランフォーレ日吉プレシャス」の開発が進んでいる。敷地面積1,282.33m2に建つRC造・地上15階建で、総戸数は69戸。設計・監理を(株)エヌプラスアーキテクトデザインオフィスが、施工を(株)内藤工務店がそれぞれ担当し、26年11月の竣工を予定している。
ほかに中心部からはやや離れるが、JR久留米駅まで1駅のJR荒木駅の近くでも新たなマンション開発が進行中。前号(vol.89/25年10月末発刊)でも紹介したが、荒木町荒木のJR荒木駅から徒歩3分の場所で(株)シフトライフが開発を進めている分譲マンション「アメイズ荒木駅南」だ。敷地面積1,325.26m2に建つRC造・地上12階建で、総戸数は33戸。設計・監理をクラッチ一級建築士事務所が、施工を(株)上田建築社がそれぞれ担当し、27年7月の竣工を予定している。
新スマートIC設置で
広域ネットワーク強化
こうした市中心部における開発動向のほかに、久留米市内ではいくつかの新たな開発の動きが散見される。そのなかでも現在、最も注目を集めているものが、九州自動車道の久留米ICと広川ICの中間での設置が発表されたばかりの「久留米南スマートインターチェンジ(仮称)」(以下、久留米南スマートIC)だろう。
久留米市が25年10月の市長記者会見で正式に発表した設置予定地は、九州自動車道の久留米ICから南に約4.6km、広川ICから北に約3.2kmに位置する高良内町~藤山町一帯。もともと久留米南スマートICは、豪雨時などの久留米IC周辺の慢性的な浸水被害の発生を踏まえたうえで、その代替ルートとしてハザードリスクの低い地域への新IC設置を検討していたものであり、地形的に洪水・土砂災害リスクが低い点が決め手の1つ。また、構造上の制約から、久留米ICに近いカーブ区間では設置が難しく、直線部で3km以上のインターチェンジ間距離を確保できるこの地点が最適と判断された。
久留米南スマートICは、上下線全方向出入可能なETC専用型。本線と直結し、接続道路は県道752号(藤山国分一丁田線)。設置個所の周辺は藤山中学校や農地が広がる久留米南部の郊外地域で、国道3号との距離バランスも考慮された。
今回の新スマートIC設置に向けては、24年9月に国土交通省が新規事業化を発表。その後、西日本高速道路(株)(NEXCO西日本)と久留米市が共同で詳細測量と設計を進めてきており、1年かけて位置を確定。そして今回の発表によって、事業は構想段階から本格的な実施準備へと移行した。今後は26年度上半期の設計完了を予定しており、新スマートICの完成および供用開始時期は未定。
久留米市南部では現在、企業誘致の拠点となる藤光産業団地が整備中であり、新スマートICの開通によって、高速アクセスが飛躍的に改善することが見込まれる。また、開通後を見越して周辺農地の一部を活用した新たな工業団地構想も浮上してきており、久留米市としては新スマートICの開通を契機として広域的な交通ネットワークの強化を進めていくとともに、都市圏全体の定時性、安全性、経済効率の底上げにもつなげていきたい考えだ。
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久留米市は、2040年を見据えた「久留米市総合計画」において、多極連携型のコンパクトシティを掲げている。今回取り上げた一連の開発動向は、単なる個別プロジェクトではなく、この多極連携型のコンパクトシティを目指す長期的な都市戦略に基づいたものだといえるだろう。
西鉄久留米駅周辺では、規制緩和による“久留米ビッグバン”やバスターミナル機能強化、そしてエリアマネジメントを通じて「人中心の賑わい」を取り戻し、老朽化した中心部の活性化を図る。一方でJR久留米駅前では、高層複合再開発を通じて広域的な交通結節点としての利便性を最大限に引き上げ、「駅前で生活が完結」という新たな生活拠点を創出している。この両駅前の二大拠点を核としつつ、久留米南スマートICの開通による広域的な交通ネットワーク強化によって、久留米市は都市の持続可能性を再構築する、新たな都市成長モデルを模索しているといえよう。今後、両駅周辺の再整備が進行し、官民連携の取り組みが進むことで、久留米市は県南・筑後エリアの中核市としての存在感がさらに増していくことが期待される。
(了)
【坂田憲治】

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