2024年12月22日( 日 )

安売り戦略の栄枯盛衰 常識外を行くドンキ(2)

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価格弾力・楽しさ・いかがわしさ

 ディスカウントといえば、その戦略は価格である。お客がそれを明確に意識する数値は一般に6%といわれている。簡単にいえば、Aの店なら100円で売られているものが、B店で94円ならB店が「安い」と明確に認識する。この6%は、大小ほとんどの小売業や卸売業の経常利益1〜4%であることを考えると決して小さいものではない。逆に利益から見るとその数字の実現は極めて厳しい。言い換えれば、お客が実感する明らかに安い価格の実現は容易ではないということだ。
 安売りを成功させるには、それをすることで従来とはまったく違った大きな売上を獲得することが必須になる。ちなみに粗利率を6%低くすれば、売上を30%以上伸ばさなければならない。

 現在のような消費低迷のなかで多くの競合がひしめく時代にこれを目論むのは半ば無謀に近い。とくに規模の大きな小売業にとっては容易ではない。だから日本型GMSは動くに動けない。そんな日本型大型店だが、かつては圧縮付加といわれる大量在庫と通路にまではみ出す陳列で探す楽しさ、選ぶ楽しさを提供していた。いわばトレジャーハンティングだ。いま、同じような手法で注目されるのがドン・キホーテだ。曲がりくねった通路、避難通路の表示も隠れるほどの背丈を上回る陳列商品の高さ。量もアイテムも今流行りの言葉にすれば「ハンパない」。そんな売り場に生鮮業者をテナントに入れ、来店頻度を上げる。

生鮮はディスカウントの鬼門

 同じように圧縮付加手法で売り場をつくる福岡地盤のルミエールも生鮮をテナントで展開しているが、一部で直営も試みる。ディスカウンターが生鮮を直営しないのはより安く売りたいというDS本来の理念の実現が難しいからだ。加工食品に近い作業工程の精肉を除く生鮮はその調達や製造、鮮度管理に手間と技術が求められだけに容易に安くは売れない。加えて、効率低下による経費率の上昇が発生する。
 しかし、すべてテナントに頼るというやり方にも問題がある。テナントの品質レベルの維持である。生鮮テナントには高い売上に加えて、利益のための高い粗利率も必要だ。それができないと経費を調整するしかない。ここは直営生鮮と何ら変わりない。こうなるとディスカウンターが生鮮で集客という元来の目論見が成立しなくなる。

 その生鮮だが、消費頻度が高いだけにたしかに集客に寄与する部分は小さくない。だが、頻度が高いというのは消費者がその価格に敏感になるということでもある。さらに消費者は価格だけでなく、鮮度も求める。日本型GMSは今ではほとんどすべて生鮮を直営化しているが、その歴史で生鮮で利益を出したという実績はほとんどない。
 たとえば鮮魚の場合を例にとると、インストア作業の1人の時間あたりの売上生産は1万円に満たない。粗利率30%をとったとしても粗利益額は3,000円。実際は2,000円前後が普通だ。正社員で見れば労働分配率は限りなく100%に近づく。だから自ら生鮮食品を手がけて、利益を図るのは容易ではないことになる。

 この構造を避けるには生鮮をテナントに任せるか生鮮をやらないことだが、そのテナントにしても先述したように消費者から評価の高い売り場をいくつもつくるのは容易なことではない。生鮮をやらないという選択肢も現在の厳しい競合下では問題だ。生鮮なしで、低経費を実現し、好業績を上げてきたドラッグストア業界だが、いつの間にか生鮮食品を導入し始めている。ドラッグストアは生鮮をもたないことで坪あたりの売上が低くても高い経常利益を手にしてきた特異な業態である。だが、ドラッグストアが生鮮の充実を図れば近い将来、その収益構造が大きく変化することが予想される。そんな意味ではドラッグストアのスーパーマーケット化の成否は今後、注目に値する。

(つづく)

【神戸 彲】

<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

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