2024年11月29日( 金 )

学生ローン地獄(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 学生ローンは、どのような背景で増加しているのだろうか。韓国では学生ローンは金利が低い上に、低所得層の場合、就職後に返済してもいいようになっているので、借入に対する抵抗感が少ない。しかし、気軽に借りたはずのローンが後になって自分の人生を苦しめることになるとは皮肉である。

 韓国では10年ほど前、クレジットカード破産が大きな社会問題になったことがある。消費を刺激するために、韓国政府が審査などをあまり厳しくせず、所得のない人にまでクレジットカードを発行するようにした。その結果、それが大きな社会問題になったのだ。これと似たようなことが今回、起こっているのだ。学生であれば、300万ウォンまで簡単に借金ができるマイナスカードというものを金融機関が発行した。それが学生を借金漬けにするという結果を招く。

  米国はどうだろう。米国の私立大学は、学生の負担額が大きい。学費、生活費、教材費などを合わせると、4年間で25万ドルほどかかる。このため、米国では多くの学生がローンを組まざるを得ない。それにより、米国の大学生は、社会に出るころには数百万円の借金を抱えることになる。また米国の大学の場合、教育の質を高めるため、学生1人あたりの教員数も多い。教授の年収は数千万円にものぼるので、どうしても学費が高くならざるを得ない状況である。

 ところで、学生ローンは今後、社会にどのような影響を与えるだろう。まず、米国では毎四半期ごとに新たに延滞する学生ローンは、過去最高水準の3.6兆円にも上るとされている。学生ローン全体の不良債権の比率は11%で、全債権平均の7倍に上るという。また日本では親に迷惑をかけたくないと借りた学生ローンが結果的には老後を迎えた親を苦しめる結果を招いてしまっている。

 親が学生ローンの連帯保証人になっているからだ。また、学生ローンの返済に追われていると、どうしても結婚、出産などを見合わせることになる。さらに、学生ローンを抱え、住宅を購入する代わりに、親と一緒に同居する人が増えているようだ。学生ローン問題は住宅問題のように経済成長に悪影響を与えることになる。

 学生ローン問題の解決策はあるのだろうか。学生ローンの根本的な解決策は、良質な就職先、所得増大のように構造的解決策が求められる。しかし、今そのような解決策を期待するのは難しい。

 米国では、所得共有プランのようなことも試されている。所得共有プランとは、収入が一定額以上を超えてからはじめて返済がスタートし、返済額の収入の一定比率を超えないようにする制度である。卒業後、借りたお金を経済状況と関係なく、一定額返済しなければならない既存の制度に比べると、かなり学生の都合を優先した制度である。ただ、この制度は高収入になった場合、自分が借りた金額より多い金額を返済しなければならない。このような制度がいくつかの大学で実施されているが、まだ今後どうなるかわからない。学生ローンは対応を間違えると、大きな社会問題になってしまうだろう。

(了)

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