韓国株式市場で台風の目であるバイオシミラーの強者「セルトリオン」(前)
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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏
韓国は1997年にアジア通貨危機に見舞われた。韓国の財閥企業による無分別な事業拡張と、海外の短期資金による過剰投資が原因で、韓国経済は破綻し、リセットを余儀なくされることとなった。
筆者はその当時、日本に滞在していたが、アジア通貨危機のあおりを受け、帰国を余儀なくされた。為替レートは100円が950ウォンだったのが、1500ウォンになり、社債の利回りも一時的に30%を上回る状況に陥った。韓国では財閥企業が相次いで倒産し、多くの失業者が発生したし、そのなかには自殺者まで出た。
アジア通貨危機をきっかけに、韓国経済は否応なしに痛みをともなう構造調整をすることになる。ちょうどその時期、インターネット時代が到来した。大企業で職を失った人々は、ベンチャー企業を起こし、IT分野に従事することになる。そのような背景下、韓国ではIT産業が活性化し、IT先進国といわれるまでに成長する。しかし、IT産業は参入障壁が低いこともあり、たちまち競争が激化するようになった。それに韓国ではソフトウェアに対する認識が不足しており、ソフトウェア産業はそれほど成長していない。
現在も韓国では良い事業アイデアが他国に先駆けて誕生するものの、ソフトウェア分野で事業化に成功した事例はそれほど多くない。ITと言っても、韓国ではソフトウェアよりも、スマホ、半導体、ディスプレイのようなハードウェアが中心で、今でも電子・電機産業は韓国経済を支える屋台骨になっている。
石油化学、自動車、造船、鉄鋼なども輸出の主要産業である。しかし、今まで韓国が競争力をもっていた上記のような産業では中国の追撃が激しく、すでに一部の分野においては、中国に追い越されている。
このような状況下、韓国を代表する企業であるサムスングループは、将来の成長分野として人工知能、通信の5G、半導体、バイオ分野に注目している。そのなかでもバイオ分野に対するサムスングループの期待値はとくに大きいようだ。
なぜならば人工知能、半導体、5Gなどは中国も国を挙げて注力しており、競争激化が予想されるからだ。また中国との技術格差も、かなり縮まっているのが現実のようだ。一方、バイオ産業は、資本と技術だけでなく、時間も必要とする分野で、サムスングループはそのような点に注目し、バイオ産業に一番魅力を感じているらしい。すなわち、バイオ産業では後発会社が1位に追いつくのは、それほど簡単ではないとされているのだ。
サムスンは2011年にサムスンバイオロジックスというバイオ会社を設立して以来、ずっと同社に投資を続けてきた。ところが、サムスンよりも先にバイオ分野に進出して、すでに世界的な地位を得た企業が韓国にある。セルトリオンという会社で、バイオシミラー分野の世界的な企業に成長した会社である。バイオシミラーというのは、バイオ医薬品の複製薬のことをいう。
セルトリオンの創業者は、バイオ分野の専門家でも薬学博士でもない。大宇グループで、かつて自動車のセルースをやっていたセールスマンだ。セルトリオンは2008年、ベンチャー企業の上場市場であるコスダックに上場し、その後、日本の東証一部に相当するコスピ市場に移り、今では韓国株式市場全体で時価総額3位にまで上り詰めている。
(つづく)
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