米小売大手のシアーズが経営破綻
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かつて「シアーズがあるからアメリカ」とまで言われていたGMSの雄、シアーズが連邦破産法11章の適用を申請した。
シアーズといえば、ひと昔前まで、アメリカ最大のGMSとしてアメリカの小売業界に君臨し、日本の小売業が大挙して訪れた企業だ。その後、ウォルマートやザ・ホーム・デポ、ベストバイなどとの競合に敗れ、2005年、同じくアメリカ有数のDS、Kマートと合併した。しかし、規模拡大だけで事態を改善しようとしたこの試みは功を奏さなかった。
その理由は消費者の嗜好変化を読めなかったことだ。ウォルマートなどのDS企業だけでなく、シアーズ、Kマートは新興するギャップなどのアパレル企業にも後れを取った。
業績不振が進むなかで彼らがとった対策は不振店舗の閉鎖や、リストラ、長い年月をかけて育てたクラフトマンズやケンモアなどのPBの売却だ。一方、新型店への挑戦はともかく、お客さんをつなぎとめるための既存店舗への投資を怠った。不振店の閉鎖はともかく、既存店舗に投資しなければ店は確実に陳腐化する。従業員の削減も同じだ。店を維持管理する従業員を必要以上に減らすと顧客サービスと売り場の正常な維持ができない。それによる荒れた売り場状態が信じられないことにもう20年以上続いていたというのがシアーズ・Kマートの実態だ。だから、常に倒産の噂が絶えなかった。おそらく、大半の顧客にとって今回の件は驚きではないだろう。
現CEOのエドワード・ランパート氏は56歳。もともとはヘッジファンドを率いる投資家だ。一時はバフェット2世ともいわれたが、小売業についてはまったくの素人だ。だから、顧客志向という発想がない。机の上の数値ですべてをジャッジする。彼の経営の特徴はおそらく「店を見ない」ことだ。だから店の不具合とお客の声が見えない。彼のほかに7人いる役員は30代、40代がその半数と若い。若さは革新に満ちているはずだが、トップの力が強すぎるとその芽は育たない。
かつての日本型大型店もシアーズと同じ状態に陥った。業績不振に陥ると管理部門の力が強くなり、営業の声は小さくなる。当然、コストカット優先の店舗運営になる。そうなると顧客から見た「不」の部分が増大し、利益のもとになる売上がますます厳しくなる。
汚い床、不採算部分をテントで隠す、品切れだらけの売り場、まばらなお客。そんな最近のシアーズの店舗にはもちろん日本からの視察などない。
シアーズの不振は、アマゾンなどのEコマースやウォルマートなどの影響があるといわれるがそれはまったく違う。本当の理由はお客さんからの視点が欠けていたことだ。
ちなみにCEOのランパートは飛行機が嫌いだから店を回らないと聞いたことがある。それなら車で回れと言いたいが、おそらく彼は小売そのものには興味がないのだろう。お客さんあっての小売業をファンドの発想でジャッジすれば、うまくいくはずがない。そのランパートは今後もシアーズの経営に携わるという。不採算店の閉鎖とリストラだけの戦術でシアーズを破綻させた当事者が今後も経営に携わるというのは再生の道に濃い霧が立ち込めるということだと思うが…。
【神戸 彲】
<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。関連記事
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