2024年12月22日( 日 )

【特別寄稿】KYB免震・制振装置データ改ざん問題~国・東京都・大手企業の二枚舌(後)

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(協)建築構造調査機構 代表理事 仲盛 昭二 氏

訴訟で問われる豊洲市場の安全性

豊洲市場

 KYBの不正な製品が、東京都庁を始め都が所有する多くの施設に使用されていたことについて、小池都知事は、記者会見において、以下のように発言している。

 「KYBが免震・制振で検査データの書き換えで、大臣認定などの不適合な製品の出荷があった事実を公表した件については、大規模地震から都民・国民の生命、そして財産を守るために、都を始め全国的に建築物の耐震化など強力に推進いたしているが、本事案がそういう中で発生したことは極めて遺憾」

 「国土交通省の公表資料によれば、震度6強から7程度の地震に対しては倒壊の恐れはないと言われているが、そもそも検査データの書き換えということは、建築物の安全・安心に対する信頼を、それこそ揺るがすものであり、あってはならないことである。メーカー側は、深く反省していただきたい。そして、都民・国民の生命と財産を守るという自覚、そして責任をもって、オイルダンパーの交換や、そのほか必要な対策を速やかに行ってほしいと考えている」

 東京都では、10月11日に開場した豊洲市場における建築基準法令違反に関して、仲卸業者が提訴する事態となっている。豊洲市場の建築基準法令違反は、設計を担当した日建設計による偽装と、審査において偽装を見逃した東京都に原因があるが、東京都は自らの審査ミスを隠すためか、日建設計を擁護している。これはKYBの不正に関する小池都知事の発言と真逆の対応である。日建設計による構造計算は不正な係数を用いたものであり、KYBの不正と何ら変わることはない。

「有言無責任」の大手ゼネコン

久留米市の欠陥マンションでは梁のコンクリートが剥落

 こうした国と東京都の不可解な対応の背景にあるのは、建設業界の「有言無責任」の体質といえる。設計・施工の瑕疵が裁判で問われている福岡県久留米市の分譲マンションの施工業者 鹿島建設の中村満義会長は、2015年に発覚した横浜市の傾斜マンション問題に関して、日本建設業連合会の会長として、以下のようにコメントしている。

 「施工管理の責任を持っている元請企業の団体として、調査や施工管理の体制の検討に当事者意識を持って積極的に対応する。元請の建設会社として、発注者に対する全責任を負っている」

 久留米市の欠陥マンション裁判における鹿島建設の姿勢は、「鉄筋に対するコンクリートの被り厚が建物全体において法令を満足していなくても、図面に明記された梁を全階30カ所も施工していなくても、施工側に責任はない」というものである。

 東京都、日建設計、鹿島建設に共通しているのは、自らの都合によって、コメントや姿勢を使い分ける「二枚舌」ということである。

 マグニチュードは、地震のエネルギーを1000の平方根を底とした対数で表した数値であり、マグニチュードが1増えれば、地震のエネルギーは約31.6倍になり、マグニチュードが2増えれば、地震のエネルギーは1000倍になる。

 先にあげた久留米市のマンションでは、設計と施工の瑕疵により資産価値がなくなり、売却できないケースや、賃貸の借り手がなく空き家状態が続いているケースなど、多くの区分所有者が苦しんでいる。KYBの不正な製品が使用されたマンションなどにおいても、今後、久留米市のマンションと同じような事態となることが予想される。

 行政の責任逃れや、企業のエゴにより建物の安全性に対する犠牲を蒙るのは、一般市民である。KYB、東京都、日建設計、鹿島建設は、市民やユーザーの生命に関わる建築構造の安全性を第一に考えた対応をすべきである。

(了)

(前)

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