2024年11月23日( 土 )

ブルーライトハザードめぐる論争でブルーライト研究会がコメント(前)

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 米国眼科学会(AAO)が、「スマートフォンのブルーライトで失明はしない」とする声明を出したことについて、ブルーライト研究会(世話人代表:坪田一男・慶應義塾大学医学部眼科学教室教授)は10月4日に、ブルーライトの健康への影響に関するコメントを公表した。ブルーライトは、パソコンやスマホなどの電子機器、液晶テレビやLED照明器具にも使用されている。これらは通常より強い低波長のブルーライトを多く含んでいるため、一部の専門家からは、睡眠障害、眼精疲労、黄斑部変性症のリスクを増大させる、いわゆる“ブルーライトハザード”が懸念されている。

米国眼科学会「視力を失うほどの影響はない」

 ブルーライトの目への影響では今年8月、米国トレド大学が行った研究で、「太陽光に含まれるブルーライトと、電子機器から出るブルーライトの両方の実験により、細胞を傷つける可能性がある」とする研究論文が、科学誌サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)の電子版に掲載された。研究では、ブルーライトを浴び続けていると、網膜にある「レチナール」という物質が毒性反応によって変化し、光受容細胞を攻撃して、最終的には「黄斑変性症」の進行を早める恐れがあるとしている。

 これに対しAAOは公式サイトで反論。研究で使用した細胞は人の目から採取したものではなく、ブルーライトの当て方も、実際にそのような方法で眼に光が入ることはないとして、「ブルーライトは視力を失うほどの影響はない」との声明を出していた。

 この問題についてブルーライト研究会では、「ブルーライトハザートに関しては、長期的に見ると、目の網膜への影響、とくに加齢黄斑変性などの疾患との関わりが懸念されており、また、夜中までブルーライトに暴露した際のサーカディアン・リズムへの影響なども指摘されている」とコメント。さらに、ネットなどの報道では、一部に英語の誤訳もみられ、本質が伝えられていないとして、改めてブルーライトに関しての情報を整理している。

 コメントのなかにあるサーカディアン・リズムとは、24時間周期の生体リズムのこと。脳の視交叉上核がその生物時計機構の中枢として機能し、夜間の睡眠による休息と日中の活発な活動というメリハリのある生命活動の根幹を形成する役割をはたしている。このサーカディアン・リズムは、外界の光の変化で日々調整されているといわれている。ブルーライトによる生体への影響については、心理的影響であるサーカディアン・リズム障害と、細胞が損傷する網膜障がいの2つに分けて考える必要があるという。

スマホやパソコンに使われる汎用性の高い発色技術

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 ブルーライトは、380~495nm(ナノメートル)の青色光で、目に見える光(可視光)のなかでも、波長が短く、紫外線に最も近いエネルギーの強い光。自然の太陽光にも含まれている。朝起きた時に空が青く見えるのは、太陽光のなかのブルーライトを目が感知しているためで、朝、浴びることで体内時計を整えることができるが、夜に浴びると体内時計が狂うといわれている。また、紫外線のほとんどは角膜と水晶体で吸収され網膜まで届かないが、ブルーライトは角膜や水晶体で吸収されることなく網膜まで到達するので、視力への影響が懸念されている。

 ブルーライトは、スマホやパソコンのバックライトに使われているほか、白色LEDにも使われている極めて汎用性の高い発色技術だ。照明器具などに使われるLEDは、単色光に近い光を発光するが、白色光そのものを出すLEDは存在しない。

 このためLEDで白色光を出すには、(1)青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせる、(2)紫外線LEDと赤緑青(RGB)の3色を発光する蛍光体を組み合わせる、(3)赤色LED、緑色LED、青色LEDを組み合わせる―などの方法がある。

 (1)の「青色LED+黄色蛍光体」は、補色となる2色が混色すると白色に見えることを利用した照明方式で、高効率で大きな光束を得られることから、現在では主流の照明方式となっている。ただ、黄色蛍光体を発光させるために青色LEDのエネルギーが必要になるという発光原理が、ブルーライトハザードの懸念材料にもなっている。

(つづく)
【小山 仁】

(後)

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