2024年11月25日( 月 )

2019年の注目経営者:ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長~強烈な逆風を乗り超える秘策はこれだ(前)

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 ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長に逆風が吹きつけている。記者殺害事件などで欧米から批判が強いサウジアラビアのムハンマド皇太子との関係、中国通信機器大手、華為技術(ファーウエイ)機器の取り扱いといったリスクだ。これまで何度となく逆風を乗り越えてきたが、今回の逆風は飛びきり強烈。「逆風に強い男」孫正義に、それを乗り越える秘策はあるのか?

上場直前に大規模な通信障害

 「人生にも会社にも何度も転機があるが、ボーダフォン買収は転機だった」
 孫正義氏は2006年に買収した携帯電話会社、英ボーダフォンの日本法人について、こう語っている。買収総額は約2兆円。ボーダフォンの買収は、孫氏のM&A人生のなかで最大の買い物だった

 ボーダフォン日本法人をソフトバンクモバイルに社名変更し、携帯電話市場に殴り込んだ。市場は日本でしか使用できないガラパゴス携帯が席巻していた。孫氏はスマートフォン(スマホ)を導入。スマホは日本の社会の構造を一変させた。孫氏の先見性と突破力の賜物である。孫氏の事業家人生の功績を1つだけ挙げるとすれは、スマホの導入だ。

2兆円の買収資金をどうやって回収するか

 2015年、ソフトバンクを持株会社のソフトバンクグループ(SBG)に、携帯電話会社のソフトバンクモバイルをソフトバンク(SB)に社名を変更。事業会社SBを東証に上場させて投資金を回収することにした。

 ところが、上場直前になって躓いた。大規模な通信障害が発生した。

 12月6日、午後1時半ごろから4時間半にわたり、全国のSBの携帯電話サービスが停止した。街中ではSBユーザーが公衆電話の前で大行列。名古屋のGLAYのライブ会場前には、会員認証のためのQRコードがスマホに表示できず、途方に暮れるファンの姿をテレビのニュース番組が報じた。

 SB社内は大混乱。「上場直前に売り出し価格を引き下げるためにサイバーテロが仕掛けられたのか?」という噂が流れた。

 当日深夜に発表された障害の原因は、「スウェーデンのエリクソン社製データ通信用交換機のソフトウェアの異常」だった。9カ月前に導入された交換機のソフトウェアの電子証明書が期限切れになるという初歩的なミスだ。同じソフトを利用していた世界11カ国の携帯電話キャリアも、同時刻に通信がストップした。通信障害後の5日間で携帯電話の解約が約1万件あった。

 SBは通信障害を受け、海外の機関投資家向けに緊急の電話会議を開いた。「SBの上場は延期されるのではないか」。市場関係者の間で臆測が駆け巡り、SB株の申し込みを辞退する個人投資家が多数いたと報じられた。

公開価格割れでも、投資金は回収

 期待と不安が交錯するなか、ソフトバンクグループ(SBG)傘下の携帯電話会社ソフトバンク(SB)は12月19日、東京証券取引所第1部に上場した。初値は1,463円で公開価格(1,500円)を下回り、終値も1,282円と公開価格を15%下回った。新規公開株を買った全員が上場初日に含み損を抱えるという異常事態だ。新規上場の祝福ムードが吹き飛ぶ厳しい船出となった。

 利益を享受したのは、親会社のSBGだけだ。需要に応じて追加するオーバーアロットメントを含む売り出し枚数で算出した調達額は2兆6,500億円。1987年のNTTを抜き、過去最大となった。

 SBGは2006年に約2兆円を投じ、英ボーダフォンの日本法人を買収、国内の携帯電話事業に参入した。それから10年余を経て、上場により投資資金を全額回収したのである。

「ファーウエイショック」が飛び火

 それにしても、SB株はなぜ不人気だったのか。大規模通信障害や携帯電話料金の値下げという足元の不安要素はあるが、投資家が抱く最大の懸念は、中国通信機器大手、華為技術(ファーウエイ)との取引、サウジアラビアとの関係のリスクによってどういう影響が出るか、だ。

  12月5日、米国の要請を受けたカナダ当局が中国・ファーウエイの孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)を「対イラン制裁違反」容疑で逮捕した。突然の逮捕劇で、ファーウエイ製品排除の動きが世界中に広まった。“ファーウエイショック”の火の粉を浴びたのが、孫正義氏が率いるSBGだ。

 12月10日、日本政府は中央省庁や自衛隊が使う通信機器の調達に関する指針をとりまとめ、ファーウエイと中国の通信端末大手ZTE(中興通訊)の排除を決定した。

 ファーウエイとZTEの製品は、米国が8月に政府機関やその関係企業への使用を禁止。11月には日本を含む同盟諸国にもファーウエイ製品の使用を中止するよう要請していると米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。

 米国政府の働きかけで、日本政府は情報漏洩など安全保障上の懸念のある機器を排除することにした。

(つづく)

【森村 和男】

(中)

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