2019年の注目経営者:ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長~強烈な逆風を乗り超える秘策はこれだ(中)
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「ファーウエイを排除しろ」、米政府がソフトバンクに警告
その際、米政府は、SBGに「ファーウエイを排除しろ」と「警告」を出していた。米国在住の起業家、中島聡氏がメルマガ『週刊Life is beautiful』(2018年12月18日号)に米国の報道を紹介している。携帯電話のスプリントとT-モバイルとの合併に懸念を示す声が、米国政府内に出ているという内容だ。
SBGはスプリントを買収したのち、T-モバイルの買収を計画したが値段が折り合わず、結局、主導権をドイツテレコムに渡すかたちでの合併に合意し、進めている。
〈ここに来て、米国政府が米国内の無線通信ネットワークのインフラにファーウエイの通信機器に使うことに大きな(国防上の)懸念を示しており、5G無線通信網の構築に関してファーウエイと近い関係にあるソフトバンクが影響力を持ったままスプリントとT-モバイルを合併させることには問題があると見ている人がいるのです。
(中略)ソフトバンクに対し、「既存の4G無線通信網で使用しているファーウエイの通信機器を置き換えろ」「5G無線通信網の構築にはファーウエイの通信機器は使うな」という指令が日本政府経由で届いているのです〉SBは12月19日、中国ファーウエイ及び中国ZTE製の通信設備の使用について、日本政府の正式なガイドラインを待つ姿勢を明らかにした。宮川潤一副社長は「ファーウエイとお付き合いしたい気持ちは山々だが、最終的には日本政府の方針に従う」と話している。
米国政府からファーウエイ製を使っているとスプリントとT-モバイルの合併を認めないと「警告」されたことは、おくびにも出さないが、ファーウエイ製を採用している米スプリントの問題が日米両政府に従った本当の理由だろう。
ファーウエイ製を排除することで、スプリントとT-モバイルの合併を、米当局に承認してもらう狙いが透けて見える。
基地局の中国製からの置き換え額は1,000億円
SBは国内通信大手で唯一、ファーウエイとZTEの基地局を使っている。基地局とはビルの屋上に設置してスマホと電波をやり取りする機器で、通信ネットワークの重要な設備だ。
SBは、中国製の基地局を数年かけて、スウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキアの2社の製品に順次切り替えていく。2019年春以降に整備を始める次世代通信5Gの基地局も、中国製を排除し、北欧2社に発注する。
宮川副社長は会見で、基地局の一部で使用しているファーウエイ製品の置き換えによる影響額について、「最悪の話でいくと1,000億円ぐらいになる」と述べている。
“ファーウエイショック”は、SBにコスト増をもたらすことになる。これが、投資家がSB株を敬遠している理由の1つだ。
10兆円ファンドへの出資の見返りに、2.8兆円をサウジに投資
もう1つの逆風はサウジアラビアから吹きつけた。投資家、孫正義氏の存在が根底から揺るぎかねない事態だ。
10月2日、サウジアラビアの反体制記者ジャマル・カショギ氏が、トルコのサウジ領事館で殺害された。複数の米メディアは11月16日、「米中央情報局(CIA)が、殺害はサウジのムハンマド皇太子の命令だったと結論づけた」と報じた。サウジ政府は皇太子の関与について躍起になって否定している。
カショギ事件で、皇太子は海外での信頼を完全に失った。皇太子が進めてきた「ビジョン2030計画」が見直されることは避けられない。
孫正義氏はムハンマド皇太子と二人三脚で昨年、「ソフトバンク・ビジョン(SVF)」を設立した。いわゆる10兆円ファンドだ。
SVF創設は、孫正義氏という投資家誕生のハイライトだ。孫氏がサウジのムハンマド皇太子に「石油の次はデータだ」と力説。45分の面会で450億ドル(約5兆円)の出資を得た「1分10億ドル」の逸話だ。
さらに、ムハンマド皇太子は5兆円の追加出資を表明している。孫氏はサウジマネーで10兆円ファンドを次々とつくり、「人類史上最大の革命、人工知能(AI)革命を起こす」という壮大な構想を描く。
サウジアラビアがソフトバンクの10兆円ファンドに出資する見返りにソフトバンクはサウジに投資する。
ムハンマド皇太子は17年10月24日、紅海沿岸に新しい都市「NEOM」を建設する5,000億ドル(55兆円)規模の計画を発表した。ブルームバーグ通信(17年11月15日付)は、「ソフトバンクグループは向こう3~4年でサウジアラビアに最大250億ドル(約2兆8,400億円)を投資する計画だ」と報じた。
「ソフトバンクはサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が紅海沿岸に建設を計画する新しい都市NEOMに最大150億ドルを投じる計画。同社の1,000億ドル規模の投資ファンドであるビジョン・ファンドも、再生可能エネルギーや太陽エネルギーといった電源を多様化する取り組みの一環として、サウジアラビア電力公社に最大100億ドルを投資する」
世界の投資家が様子見を決め込むなかで、孫正義氏の行動が突出している。孫社長はサウジとの関係を深めていく。
(つづく)
【森村 和男】
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