2024年12月27日( 金 )

2019年の注目経営者:ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長~強烈な逆風を乗り超える秘策はこれだ(後)

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アラムコのIPO計画は中止か

 サウジに暗雲が立ち込めた。皇太子の経済改革を否定する報道が相次いだのだ。

 ロイター通信(18年8月22日付)は、「サウジアラビアが国営の石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)計画の中止を決定した」と関係者の話として報じた。
 アラムコのIPO計画は、皇太子が進める経済改革の目玉だった。アラムコが上場すれば、株式時価総額は2兆ドル(210兆円)を超えると言われた。上場で得た資金を経済改革に充てる計画だ。上場が中止になれば、皇太子が進める「ビジョン2030」構想は消し飛ぶ。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル電子版(18年9月30日付)は、「サウジアラビアがソフトバンクグループと計画していた太陽光発電事業への2,000億ドル(約22兆7,000億円)の投資を棚上げすることを決めた」と報じた。

 ムハンマド皇太子は、一連の報道に反撃に出た。ブルームバーグ通信(18年10月6日付)とのインタビューで、「サウジアラビアがアラムコIPOを取りやめた、あるいは延期した、ビジョン2030が遅れているとの噂は誰もが耳にしている。これは正しくない。アラムコのIPOは2021年まで実施する」と語った。
 皇太子はソフトバンク・ビジョンに450億ドルを追加出資する方針も明らかにした。
 サウジアラムコのIPOが二転三転する報道は、サウジ王族のなかで、ムハンマド皇太子の経済近代化計画に激しい抵抗があることを覗わせた。

 その渦中で起きたのがサウジ記者の殺害事件だ。皇太子は海外での信頼を失った。

 皇太子が進めてきた「ビジョン2030」、アラムコIPO計画はどうなるのか。皇太子が失脚すれば、孫正義氏への影響は測り知れない。

 孫正義氏は、皇太子と二人三脚で10兆円ファンドを、次々と立ち上げて100兆円ファンドにする構想をもっていた。だが、サウジの大混乱で、構想が空中分解する可能性が高い。ソフトバンク・ビジョン・ファンドが、求心力を失うことは避けられない。
 投資家がSB株を買うことに二の足を踏んだもう1つの理由だ。

日本経済が経験したことのないレベルの営業利益を出す

 強烈な逆風が吹きつけるなか、孫正義氏は意気軒昂だ。

〈「来年(2019年)は日本経済が経験したことのないレベルの営業利益が出せる」。SBGの孫正義会長兼社長は11月、決算発表時に豪語した。〉
(日本経済新聞12月9日付朝刊)

 利益水準はトヨタ自動車を射程に収め「日本一」の座をうかがう。SBGの2018年4~9月期連結営業利益は1兆4,207億円と、トヨタの1兆2,618億円を上回った。19年3月期のトヨタの会社計画は2兆4,000億円。
 ここがターゲットになるが、今期は逃しても来期「日本一」の可能性は残る。日経は、その種明かしをこう報じた。

 〈19年6月に約1兆円の利益を「予約済み」なのだ。正体は約3割をもつ中国・アリババ集団株を16年に一部手放した際の利益。アリババ株の需給への影響も考え、単純に売らず、デリバティブ取引をかませて来年6月の先渡し契約を結んだ。アリババの株価に応じ変動するが、9月末と同水準なら1兆円超の利益が出る。
 「元手」は00年、孫氏がジャック・マー会長を見込んで投じた20億円。保有時価は今や約6千倍だ。
 上期のSBGの連結営業利益の4割弱は「未実現評価益」、すなわち「未来のアリババ株」が占める。投資先の企業価値を四半期ごとに評価し値上がり分を計上する会計上の概念で、キャッシュは生まない〉

 SBG株の時価総額は投資先合計より低い。投資先の「未実現評価益」を増やせば、SBGの営業利益はトヨタも経験したことのない営業利益を出せると豪語しているのだ。まさに、投資家・孫正義氏の面目躍如である。強烈な逆風が吹きつけるなか、そんなに豪語して大丈夫か、と周囲はハラハラドキドキだが、孫氏はこう言っている。

 「負ける戦いはしない。負けるという戦いはもちろん、負けるかもしないとか、苦戦するだろうという戦いは最初からしないことです」

(了)

【森村 和男】

(中)

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