米中貿易経済戦争の本質:5Gをめぐる主導権争い~HUAWEI(華為)に対する米国の対応から見える焦り(1)
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東洋学園大学教授 朱建榮 氏
昨年12月1日、米中関係を左右しかねない2つのことが同時に起きた。
1つは、トランプ米大統領と習近平中国国家主席がG20の開かれたブエノスアイレスで行った会談で、両首脳の間で90日間の貿易経済交渉延長の期限に合意し、当面の正面衝突がひとまず回避されたことだった。
もう1つは、その数日後に初めて披露されたが、世界の1、2位を争う中国の大手通信企業HUAWEI(華為)の副会長兼最高財務責任者(CFO)で任正非会長の愛娘である孟晩舟氏がカナダで拘束されたことだ。
米側はその後、この2つのことは無関係と主張している。中国側も表向きでは孟晩舟拘束事件をアメリカとの政府間経済交渉から切り離しているように見える。しかしこの2つのことは裏でつながっている。そのつながりを検証することで、米中間の貿易経済摩擦の本質も見えてくる。実際にそれは本質的に次世代ハイテク技術の主導権をめぐる争いであり、HUAWEIはまさにこれまでのアメリカの技術覇権に挑戦する中国の代表選手なのである。孟晩舟拘束事件について、日本でも結構報じられているが、ほとんど米国側、正確にいえばアメリカ政府側の言い分を鵜呑みにした見方と分析の仕方だと言わざるを得ない。ここでは米欧の学者の見解も紹介しながら、とくに中国側の受け止め方、対応の仕方を中心に検証してみたい。
孟晩舟拘束をめぐる3カ国間の攻防
孟晩舟氏が拘束されたということは、米国はいよいよ禁じ手まで使ったなと直感し、首脳間で達した脆弱な合意(90日間猶予)も台無しになるのではと懸念した。
案の定、中国筆頭外務次官が米国とカナダの北京駐在大使を呼び出して強く抗議し、盧沙野・中国駐カナダ大使は12月13日、地元紙グローブ・アンド・メールに「事件は単純な司法案件ではなく、政治的な陰謀だ。中国のハイテク企業に対する国家権力を利用した米国の魔女狩りだ」と強く批判する寄稿を掲載した。
カナダの裁判所は12月11日、孟氏の保釈を認めたものの、米国への身柄引き渡しの可能性が依然残る中、元外交官らカナダ人2人がスパイ容疑で中国で拘束された。中国当局はそれと孟氏拘束との関連を否定しているが、誰から見ても、それは米国、カナダ、中国の三者を巻き込んだ激しい駆け引き、「ビッグ・ディール」の一環である。
そもそも孟晩舟副会長の拘束は国際法上、違法である。孟氏はバンクーバーの国際空港で乗り換えた際、米側の要請でカナダ警察に捕まったが、国際線トランジットの区域は国際法上、カナダの領土ではない。米国と犯罪者身柄引き渡し協定をもつとはいえ、第3国の公民を拘束できる根拠にならない。
どうも米側から最初は「孟氏がカナダ永住権をもつから」との「がせ情報」をカナダ側に流したらしい。カナダはアメリカに断れない弱い立場であり、「カナダの永住権をもっているなら、拡大解釈して拘束の理由になるだろう」と考え、結局、火中の栗を拾ったことになった。ところが、保釈をめぐる裁判で、孟氏の永住権資格は2009年に放棄されており、カナダが孟氏を拘束する国際法上の根拠が何もないことが明らかになった。その後、中国からの猛烈な圧力を受けて、最初は完全に米側に立ったカナダのトルドー首相も困り果てたらしく、「米中間の激しい覇権争いに巻き込まれた」との心境を吐露した。(つづく)
<プロフィール>
朱建榮(しゅ・けんえい)
1957年8月生まれ。中華人民共和国出身。81年華東師範大学卒業後、86年に来日。学習院大学で博士号を取得。東洋女子短期大学助教授等を経て96年から東洋学園大学教授。関連キーワード
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