【わらび座福岡公演「北前ザンブリコ」】時代を超える「生きる手ごたえ」~2500キロを結ぶ海の物流ネットワーク「北前船」
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株式会社わらび座代表取締役社長 山川 龍巳 氏
作家の石川好先生に北前船コリドール(回廊)構想について語っていただいたことがある。「地方の人は東京や大阪から有名な人を連れてきたがる。地方対中央という発想で、隣に気付いていない。かつて北前船の時代は、秋田と酒田、新潟と、横につながりながら、人も情報も商いも行われていた」「上方から蝦夷地まで2500kmの海に120から130の港があり、北海道、東北、北陸、九州、関西を結ぶ物流のネットワークだった」「この船に乗っていたのは、商人ばかりではなく、船乗りの多くは、ならず者やはぐれ者たちだったこともある」「男が乗っているのだから、港では色恋もあり、色街もあった」と。
北前船ザンブリコの時代設定は、価値観の大転換が起きる幕末である。貧乏から脱皮したくて、「大金もちになりたいという、ギラギラで欲望の塊の若者が主役である。60歳以上のシニアたちは、この気持ちが共有できる。私たちの世代は、全体が貧乏であり「夢は東京や大阪にしかない」ので、それをつかむために都会へ出た。故郷に残る者たちは切ない思いをかかえた人もいたに違いない。
若者はいつの時代も、その時代に最も不足しているものに敏感であると言われている。「お金もちになりたい」「いい家に住みたい」「いい車に乗りたい」などという、その当時、最も不足していたものに、私たちの世代は反応していたようだ。今の若者たちは、車をもっていないと彼女もつくれないという感覚はないかもしれない。
しかし、今も昔も変わらないのは、生きる手ごたえであり、孤独や、むなしさからの脱皮である。「北前ザンブリコ」の主役・喜一という若者は、欲望のあまり人間としての道を踏み外す。それを支える船頭や、とくに、女たちのかかわりが面白い。男たちは、やれ、闘いだ、お金だと理屈をこねるが、命を生み、育む女性の性は命への直感に支えられているように思う。少なくとも、北前ザンブリコの女性たちはそう描かれている。さらに面白いのは、転換期の幕末が、あらゆるジャンルの音楽で表現される。さらに多彩なダンスも登場する。また、夢とロマンが生きがいの、この時代の有名な男も登場する。お祭り好きな博多の皆さまのセンスに合うように思う。どんなにきつい時代でも、価値観を共有する人たちがいて、笑いながら超えられれば良いではないか。
主役の喜一は大金持ちになりたいという価値観から、強烈な人との出会いのなかで・お金の持つ意味と価値に気付いていく。時代の激動が欲望から、感動と共感に人間を育てていくことも大いにあることだ。 そのことに気付かせてくれるのは多くの場合女性かもしれない。私たち男の多くが、母親の愛に頭があがらない。命を生み育む母親の、女性たちの命への愛で育てられたからだと思う。激動の時代に最も必要なのはこのことかもしれない。
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