2024年11月24日( 日 )

【特別レポート】九電工関係者による傷害致死事件の真相を探る~被害者を殴ったのは「プロの拳」をもつ半グレ(3)

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昨年9月、長崎県五島列島の北端に浮かぶ小さな島で起きた傷害致死事件。加害者とされる男性が自首したにもかかわらずなぜかすぐに釈放され、いくつも不明な点が残されたまま捜査が進展している様子もない。遺族らはやりきれない気持ちを抱え、「疑い出したらきりがない。何を信じていいのかわからない」状態でほったらかしにされたままだ。現地マスコミがまったく報じない、不可解な事件の背景を追った。

既報(1)(2)

60度の酒を1リットル飲んだ、は本当か

九電工関係者4人が事務所にしていた、
宇久島みらいエネルギー合同会社

 Iは当初「Nさんを殴ったところ、倒れて頭を打った」と自供していた。動機や酔っていたかどうかはさておき、はっきりと殴ったことを認めていたにも関わらず、長崎県警はなぜかIの証言を証拠不十分として起訴猶予処分にし、勾留期限23日間が切れる直前にIを釈放している。

 長崎県警はNさんの遺族に対して、「Iの自供だけでは公判を維持できないので釈放したが、人が亡くなったことに変わりはないので捜査を進めている」と話しているという。しかし、どのような捜査を進めているのかはまったく見えてこない。「島民が得ている情報は、Iが逮捕されたことで終わっているというのが実感。すぐに釈放されたと聞いてびっくりしている」(島民K)。

 10月5日、Nさんの遺族は再度長崎県警から連絡があり、「情報が足りないのでIの処分が決められない。傷害致死の可能性は高いので、適切な処分が決まるまで処分保留で捜査は継続する」と伝えられている。しかし、同7日に長崎県警の担当者が直接Nさん宅を訪れて話した際には、「Iの正当防衛だと言われた。父からつっかかっていって、Iがどうにかいさめようとしたが止められなくて殴ってしまった、と。Iは正当防衛を主張しているとのことだった」(息子)とトーンダウン。

 Nさんが倒れて動かなくなったにもかかわらず救急車を呼ばなかった理由については、IとMらは「外傷がそんなに大きくなかったため」と主張しているという。Mは酔っぱらっていたため当時のことを何も覚えていないと主張しており、捜査担当者は「そこを否定しきれない、そう見えるのもしかたない、と。主張そのものはおかしくない、と話していた」(息子)という。

 Nさんの飲酒量については、倒れてから次の日の昼まで放置されていたため、解剖してもどれだけ酩酊していたかわからなかったという。しかし、救急搬送記録に残されていた(Iらが申告した)Nさんの飲酒量は「60度の酒を1リットル弱」である。常識的に考えれば一度の宴席で飲める度数や量ではなく、Iらが「Nさんが異常に酩酊していた」ことを言い繕うために偽証した可能性を疑うべきではないのか。そもそも時間が経っていたとはいえ、60度の酒を1リットル近く飲んだ遺体からほとんどアルコール反応が出ないのは考えにくくはないか。Nさんは本当に酩酊していたのだろうか。

長崎県警は、Nさんが転倒した場所を「真っ暗な
場所だった」とするが、実際は複数の街灯が煌々
と照らす、むしろ「夜にしては明るい場所」だ。

 捜査担当者はNさんの遺族に対して「現場が真っ暗で防犯カメラもないので、Iの(Nさんを殴ったという)証言をそのまま信じるわけにはいかない」とも話しているという。まるでIの弁護士のような言いぶりだが、この証言のなかには1つ、明確な間違いがある。現場は決して「真っ暗」ではなかったのだ。港から細く突き出したコンクリート岸壁付近が、Nさんが倒れて頭を打ったとされる場所だが、複数の街灯が一晩中現場を照らしていることを現地取材で確認している。警察が言うような「真っ暗な場所」というよりむしろ、街灯がほとんどない島にしては数少ない「夜でもはっきり見える明るい場所」なのだ。

加害者は「プロの拳」を持つ男

 なんとも腑に落ちない事件であることは明らかだろう。亡くなったNさんが酔って女性に触った、などの情報はすべて加害者とされるIらの証言であり、しかも触られたとされる女性はIの恋人なのだ。うがった見方をすれば口裏を合わせることは容易だし、唯一の目撃者であるはずの男性Mは「ひどく酔っていたために当時のことをまったく覚えていない」と証言しているにもかかわらず、Nさんが女性に触ったことだけは覚えているとすればあまりにも不自然だ。

 事件発覚当初、IらはNさんを殴ったことを隠し、「倒れていたNさんを見つけた」などと嘘をついていた。こうした事実を合わせて考えれば、Iらが罪を逃れるために口裏を合わせている可能性こそ疑ってしかるべきだが、長崎県警はなぜか「Iの正当防衛の可能性がある」などと、遺族に対して加害者側の主張を追認するような発言を繰り返している。亡くなったNさんに抗弁の機会が与えられるはずもなく、「死人に口なし」とはこのことではないか。

 じつは、この話には続きがある。Nさんを殴ったとされるIの拳は素人のそれではなかったのだ。

 「Iは元プロボクサーで、バンタム級の日本ランキング5位までいったと話していました。日頃から腕力を自慢するところがあって、気になるのは『自分はカタギではない』と断言していたことです。要するに暴力団関係者だということで、九電工のような大きな会社がそんな人物を雇っているのかと、島の人間からはひんしゅくを買っていました」(島民S)

 「Iはイシダイ釣りが趣味ですが、イシダイ釣りにはまるのは極道が多いんです。時間と金が自由にならないとなかなかできない趣味ですからね。実際、島民の元ヤクザがIと釣り船で同席した際に『なんや、おまえもか』と意気投合したそうです」(漁業関係者)

宇久島で進行中のメガソーラー事業で
使用される太陽光パネル(モデル)

 亡くなったNさんが、Iの存在をもてあましていたという証言もある。Nさんは職務上Iの上司にあたるものの、ことあるごとにNさんに反抗するIの姿が目撃されていたのだ。激しい対立の背景には九電工内部の派閥抗争が関係していると話す者もいる。

 「Nさんは非常に有能で、人物的にもやさしく穏やかな方でした。Nさんは九電工では長崎支店長のTの派閥に属していましたが、Iはなぜか九電工専務であるJのお気に入りでした。本来なら正社員でもないIがNさんに意見できるはずもないのですが、Iの強気の背景にはこういった派閥力学があったのかもしれません」(九電工関係者)

【特別取材班】
(つづく)

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