中国企業「友利家具」として挑む家具づくりとは?(後)
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張英氏は「責任感が強すぎる」
武野 彼女は責任感が強すぎるのです。「そこまでやらなくても」というぐらい、四方八方に気をつかい過ぎるんです。そういう彼女がいたからこそ、今のアダルがあるわけですが、彼女には「もっと人に任せた方が良い」としょっちゅう言っているんです。なんでも自分でやるのではなく、もっと部下に任せないといかんと。「そうしないと、あなたが倒れるよ」と。ところが、それを任せられないで、苦しんでいるわけです。張社長は、「苦しんでいる妹を助けたい」と思って、アダルにきてくれたんです。
張英 お姉ちゃんにきてもらったのは、前の協栄家具と上海江州工芸品有限公司(松江工場)を廃止して、新しく友利家具を設立し、土地を買い、工場を建設するというのが時期的に重なり、「とても私1人ではできない」と思ったからです。とても忙しくて、車を運転していても、ボーッとしてしまうほどでした。「これは危ない」ということもあって、お姉ちゃんに「助けて欲しい」と頼みました。お姉ちゃんは、誰にも相談せず、すぐに引き受けてくれました。
誰にも相談しなかったのは、全員に反対されるのがわかっていたからです。お姉ちゃんは、中国政府のエリート官僚だったからです。辞めたときには1,000名以上の部下がいました。お姉ちゃんが政府を辞めたとき、両親はショックを受け、1カ月ほど眠れなかったそうです。お姉ちゃんは、話が上手で、人の管理ができるので、社長をやってもらうことにしました。
会社がスタートしたばかりなので、今はいろいろな問題がありますが、これが落ち着けば、お姉ちゃんに仕事を任せたり、人材をそろえていくことで、会社はうまくいくと思っています。今のところお姉ちゃんには出荷を任せていて、お姉ちゃんの旦那さんには仕入れを任せています。私は総務や財務、政府対応などをやっていますが、これから私の仕事を少しずつ任せていくつもりです。近い将来には、私は財務関係だけやるようにしたいと考えています。
―政府対応とは、たとえばどういうものですか?
張英 たとえば、工場が排出する空気などの環境関係の検査が大変です。毎月政府にレポートを作成し、検査を受けるというのは、なかなか難しいところがあります。社員の安全管理、労務管理なども以前に比べ、政府の基準が厳しくなっています。
武野 あなたはオーナーなんだから、労務管理などの仕事は部下に任せなければいけないよ。
張英 今は会社ができたばかりだから、政府との人脈をつくらなければいけないのよ。すぐには仲良くなれないので。オーナーである私が直接役人と会って、安心感を与えて、仲良くなる必要があるの。1〜2年経てば、部下に任せられるようになるかもしれないけど。
私には、松江や協栄の会社のころ、政府の人間と仲良くなった経験があります。とくに会社をたたむ際の交渉は非常に難しかったですが、「命がけ」でやりました。役所に3カ月間、座り込んだこともあります。
―会社経営はまだまだ手探り状態?
張英 そうですね。2つの会社を合併して、人件費の節約のため、人を減らしました。新しい人を雇っていますが、人を育てるのには時間がかかります。仕事量が増えているので、大変です。今の会社には若い人が多い。やる気があるけど、経験が浅いので、自信をもって仕事できる人が少ない。私も自信がない。自信があるのはお姉ちゃんだけ(笑)。
お姉ちゃんは、「まずやろう」という人。できるできないは考えない。とにかく「自分はできる」と信じて、やり続けます。「自分にはできない」と考えながらやると、できない理由を探し始めるので、結局できません。お姉ちゃんのそういうところはすばらしいと思います。先日、普通に考えたら、絶対納期に間に合わない仕事がありましたが、できると信じてやってみたら、できました。
ともに「100年企業」の夢を実現したい
―武野会長は今後、友利家具に対しどのように関わっていくのですか。
武野 今後も引き続き、私がいろいろ仕事の指導をしていく考えです。これは日本でも同じです。取引先から新しい商品の注文を受けた場合、私には長年の経験があるので、商品の弱点を見抜き、「こう工夫すればもっと良くなる」と提案することができます。そういうことは、うちの職人は言わないし、幹部社員も気づきません。これは、お客さまから叱られた量の違いなんです。
叱られると逃げる人が多いですが、私は逆に向かっていくんです。叱られる理由をよく聞いて、それを次の商品づくりに生かしていくわけです。中国人社員たちにも、そういう自分の経験、体験を伝え続けていきたいと考えています。友利家具の建物内には、私の部屋をつくっています。その1つの部屋に酒とテーブルを置いて、社員と酒を飲めるようにします。
―武野龍社長とはどう付き合っていきますか。
張英 龍社長は優しい性格で、良い人間です。私は頑固な性格で、人に頭を下げて、何かをお願いするような人間ではありませんが、それは仕事の上での話で、個人的には龍社長とは仲良くやっていると思っています。武野会長には「100年企業」という大きな夢があります。私もその夢に共感しています。武野会長の夢に向かって、龍社長ともっと家族ぐるみの付き合いをしていきたいと思っています。
(了)
【大石 恭正】
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