2024年11月30日( 土 )

翔んで上海~現地視察レポート(中)

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リスクはドリームの母

 泊まるホテルは五ツ星。しかし、この五ツ星が何とも面白い。中央電視台の夕方のニュースを見ていると昨年は7社の五ツ星ホテルが資格をはく奪されたと言っていた。何で!と思うものの、実際に泊まるとそれを実感する。建物やエントランス、ロビーは日本のトップクラスのホテルよりはるかに豪華だ。テレビのチャンネル数も86。しかし、浴槽を満たそうとお湯を出すが、ぬるいお湯しか出ない。エアコンも18℃設定で24℃に変えても自動的に18℃に戻る。外気温は4℃。18℃では部屋が暖まらない。しかも部屋によって、この状況が違う。アメニティもない。だからハブラシやひげそりを持参していないと困ったことになる。

 ホテルで見る中国中央電視台。いわゆる国営放送だが、何とコマーシャルを放映している。国からの補助金給付がなくなり、自賄いの経営を余儀なくされているからだという。国営放送だから、さぞかし信頼に足る企業を選んでコマーシャルを放映しているのかと思いきや、劉さんに尋ねると「そんなことはない」と笑う。中にはいかがわしい企業のコマーシャルも流すという。これも我が国では考えられないことだ。

 中国都市部の大卒初任給は日本円で8万円余り。職種と地域による違いはあるものの、上海の場合、不動産価格が高く、新卒給与なら、その4割が家賃に消える。中国の大都市には「蟻族」、「鼠族」と呼ばれる若者がいる。住居費を抑えるために地下の狭い住居に住む若者を表す言葉だ。日本円で5,000円以下の地下住居に住みながら上昇志向をもって都市でチャイナドリームを目論む若者だ。極めて過酷な状況からどうはい上がるかは、すべて自分自身にかかっている。

カントリーリスクなどどこにでもある

 一般的に日本のマスコミはブームに踊り横並びする。いわゆる「横並び民族」だ。出る杭を打ち、遅れを叱咤する。だから、いつでもどこでもマスコミは似たような話題を取り上げる。社会問題1つをとっても政治家や官僚のスキャンダル、建設疑惑、青少年問題と時代、主義主張に関わらず一斉に同じような報道をする。

 中国関連も同じだ。進出企業に労務や法的な問題が発生すると、それを大きく報道する。国民性や政治体制が違う国に進出すれば困難な問題が発生するのは、ごく自然なことだ。それを国内の基準や常識で判断することは的外れである。我が国の常識が最高。しかし、我が国の常識は、世界の非常識でもある。

 劉さんはいう。中国人は自分のことしか考えていません。でも、それは一般的な見方で、義に厚い面も重ねてもっています。これは日本人にも共通する。その昔、我が国は大気汚染や河川汚濁が大きな問題になった。マナーについても同じだ。その昔、アメリカへの団体旅行で現地の住民からひんしゅくを買った事例は枚挙にいとまがない。列への割り込みも団塊の世代の幼少期は全国どこにでも見られた光景だ。そんな歴史を経て今の日本がある。それをすっかり忘れて中国を批判するだけでは、なかなか相手を理解できない。

 中国の発展が鄧小平によって始められたのは誰もが知るところだ。彼はニューヨークの偉容や日本の製鉄、自動車産業を見て、社会主義による中央主導の計画経済では社会が豊かにならないことに気付いた。「白いネコでも黒いネコでも鼠を捕るのが良いネコ」という発想で、「できるものから先に富め」という方針で政治システムはそのまま、経済の自由化と開放に舵を切った。先進国に習うそれは今でも違う意味で続いている。その後の展開は誰もが知る通りである。矛盾を克服するスピードと困難に挑戦する姿勢。幾多の権力闘争の末、集中すべきは経済発展と気がついた。余談だが、北朝鮮の金日成にもそのことを伝え、改革開放を促した。しかし、本人はそれを意識したものの、その息子・金正日はそれを無視した。そして今の北朝鮮がある。

 空港から上海市内への道すがら感じたのはインフラ管理の完璧さと秩序維持の徹底である。我が国の高速道路管理は今や完全とはいえない。路面の傷みは少なくないし、分離帯や、のり面の植え込みや雑草の手入れは十分ではない。その出入り口も通行車両から投げ捨てられたごみが散乱している。しかし、中国の道路管理は完璧だ。植え込みも道路の白線も手入れが行き届いている。街中にごみはまったくない。国の勢いの差がこんなところにも表れている。そんな状況を見ることなく、ただ不信と懐疑で相手を見るのは、まさに「引かれ者の小唄」でしかない。

 ただ、国情不安を物語るシーンも目にできる。料金所に併設している検問所だ。その壁面には事故車や停車車両、運転者が車を離れている光景を目にしたら、速やかに警察当局に通報するようにと記されている。

(つづく)

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