2024年11月23日( 土 )

キャッシュレス決済の真のメリットは?(前)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 以前は支払いといえば当然キャッシュの使用が想定されていたが、デジタル経済の到来で、それも見直され、決済のキャッシュレス化が世界的に進んでいる。現金で決済するかわりに、クレジットカードや電子マネー、QRコードによるスマホ決済など、キャッシュレス化を促進するさまざまな方法が登場し、日常的に使われている。とくに、インターネットショッピングなどでは、クレジットカードの出番が前よりずっと多くなっているし、デジタル技術の発達で、購買プロセスのなかで決済はできるだけストレスのないように簡便化しようとする動きが活発である。しかし、日本は意外とキャッシュレス決済の普及があまり進んでおらず、キャッシュレス化の実現に注力すべき国の1つである。ちなみに、日本のキャッシュレス決済比率は20%に過ぎず、米国の45.0%、中国の60.0%、韓国の85.1%と比較すると、いかにその比率が低いかがわかる。

 それでは、なぜキャッシュレス化が必要なのか。支払いをする立場から考えてみよう。キャッシュ決済をするためには、銀行からお金を引き出し、いつも財布に現金を入れてもち歩く必要がある。またキャッシュは落としても戻ってこない。

 商品などを購入する際は、お財布を取り出し、硬貨や紙幣を数えて支払いする。お釣りをもらったら、それをもち歩く必要もあり面倒である。このように現金を支払うプロセスは時間もかかるし、支払う側にも、もらう側にも結構なストレスがある。

 現在、コンビニなどではスイカなどをかざすだけで、決済が済み、お金をやり取りしなくてもよいという、とても便利な時代になっている。このような状況下で、キャッシュレス化は次のようなメリットがある。第一に、キャッシュレス化は購買プロセスにおいて、手間を省いて、顧客体験の向上につながる。第二に、現金で支払いを受けた店舗側を考えてみよう。お店では、事前にお釣りなどを準備する必要があるし、もらったお金を集計し、銀行にもって行かなくてはならない。銀行も、現金の輸送や管理、ATMの運営に多大なコストがかかっている。銀行やコンビニ、駅などに設置されているATMの数は、日本の場合、全国に何と20万台もあるという。ATMの管理コストは年間2兆円に上るという試算がある。

 国は国で、偽造されにくい硬貨や紙幣の製造、保管、輸送に膨大なコストがかかっている。日銀によると、日本の紙幣の年間製造コストは、約517億円だという。

 キャッシュレス化はこのような現金のコストを削減することになる。第三に、現金を使えば、取引の証拠が残りにくいため、マネーロンダリングなど、犯罪や不正利用がやりやすくなってしまうことだ。国の立場からすれば、お金の流れをきちんと把握して、税の取りっぱぐれがないようにしたいだろう。 そのような意味においてもキャッシュレス化は有効である。それに、キャッシュレス化は取引記録が残るので、各種データの利用にもつながり、企業のマーケティング戦略の樹立にも役に立つ。

 最後に、日本はオリンピック・パラリンピックの開催を控えており、インバウンド消費の拡大で、日本の経済を活性化させようとしている。外国観光客はキャッシュレス決済に慣れているので、日本の店舗はインフラ整備が整っていなくて不便だという声を耳にする。そのようなビジネスチャンスを逃さないためにも、日本政府は主な商業施設、宿泊施設、観光スポットのキャッシュレス化の対応を急いでいる。

(つづく)

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