2024年11月30日( 土 )

キャッシュレス決済の真のメリットは?(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 それでは、日本と違って、キャッシュレス化が、かなり進んでいる中国や韓国にはどのような背景があったのだろうか。中国では固定電話が普及する前に携帯電話が普及した。その結果、中国ではスマホ決済ができないと、生活に不便を感じる程、スマホ決済が一気に普及している。アリペイの利用者は5億人。ウィーチャットペイの利用者は8億4千人。2016年のスマホ決済額は約600兆円で、この2つの決済方法に中国銀聯を入れると、中国の決済の9割を占めることになる。

 スマホ決済がこれだけ爆発的に普及した背景には、利便性だけでなく、屋台や個人商店のように規模の小さいところで、クレジットカードのような読み取り端末を用意する必要がないことと、手数料がかからないことだ。また中国は偽札が多く、現金への信頼度が非常に低いこともキャッシュレスが普及した背景である。店側からすれば、偽札をつかまされる心配のないスマホ決済が歓迎される。それに、共産国家である中国政府からすれば、すべての行動の履歴が残って、消費者の動向が把握できるスマホ決済は都合が良いわけだ。

 韓国の場合、どのような背景でキャシュレスが進んだのだろうか。韓国では100円くらいの買い物にもクレジットカードが使われている。韓国で現在のようにクレジットカードが普及するようになった背景には、2つの要因があった。1つは顧客にクレジットカードを利用させることによって、取引記録が残り、税収を確保するのが目的だった。現金で取引される場合には、記録がなく、税金のとりっぱぐれが、その当時多く発生していたからだ。

 もう1つは、韓国経済があまりにも落ち込んでいたため、消費を刺激して経済を活性化させるのが狙いだった。クレジットカードは手元に現金がなくても消費できるので、あとのことを深く考えずに消費することによって消費が促進される。韓国政府の狙い通り、景気は刺激されて経済はたしかに良くなったが、韓国経済は「カード大乱」といわれるほど、請求金額の延滞などが発生し、大きな社会問題まで発展した。

 これまで見てきたようにキャッシュレス決済はメリットが多い。経済がデジタル化された現在、今後もその方向に進んでいくのは間違いないだろう。しかし、100%のキャシュレス化に問題がないわけではない。通信障害が発生した際などが良い例だろう。QRコードのハッキング、クレジットカードの不正利用など、キャッシュレス化の課題はまだまだ残されている。

 急激に進んでいるキャッシュレス決済市場には、銀行以外にIT企業、通信会社などが参入し、その大きな市場を狙い激突しそうだ。キャッシュレス決済の主導権をめぐっての戦いは今後ますます激しくなりそうだ。

(了)

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