誤った人間活動が引き起こす地球の砂漠化!(前)
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砂漠化がはじめて注目されたのは、今から約40年前、1977年(国際連合環境計画・UNEPがケニアの首都ナイロビで開催した国際砂漠化会議)のことだ。当時はアフリカ諸国で局地的な環境問題として注目されただけであるが、いまや地球規模の環境問題にまで拡がり、いっそう複雑化すると同時に深刻さを増している。現在では、世界の陸地の1/3、乾燥地域の7割を占める。砂漠化する背景や現状を日本にいては肌で感じることはできないが、すでに黄砂、近い将来は食料問題などで間接的な影響を受けることは確実と言われている。
本格的な砂漠化がみられる、日本から一番近いところは中国内蒙古自治区である。中国では1949年の革命で中華人民共和国が成立して以降、食料を増産するために牧草地の高度利用を旗印にして、どんどん草原地域に農民を入植させ開墾した。そのつけとして現在は砂漠化が進行し、有効的な砂漠化対策が求められている。
中国内蒙古自治区出身でアジア連合大学院機構特任研究員・環境学博士の朝格吉拉図氏に聞いた。朝格氏は大学院で砂漠化に関する研究を行い、現在は砂漠化、さらにはリモートセンシング衛星画像データを用いて水環境の汚染実態調査や社会基盤環境整備問題に関する研究開発などを行っている。
アジア連合大学院機構 特任研究員 朝格吉拉図 氏面積は日本の約3倍でそこに約2,500万人が住んでいます
――本日は「地球の砂漠化」について、色々とお聞きしたいと思います。まずは、日本から一番近くて本格的な砂漠化を見ることができる、朝格さんのご出身でもある、中国内蒙古自治区(以下、内蒙古)に関して教えていただけますか。
朝格吉拉図氏(以下、朝格) 内蒙古は中国領土の北沿に位置する自治区です。東西に長く伸びており、東から順番に黒竜江省・吉林省・遼寧省・河北省・山西省・陝西省・寧夏同族自治区、甘粛省と南に接し、北はモンゴル国・ロシア連邦と接しています。面積は日本の約3倍でそこに約2,500万人が住んでいます。
自然の豊かさに恵まれ文化も多彩です。モンゴルの詩歌や突き抜けるような青空のもとで広々した草原を舞台に、腕の大胆な動きや、手首と肩のコーディネーションを重視したモンゴルダンスなどは有名です。また近年アメリカなど海外で人気なものの1つに、西部オイラト族に伝わる「ホーミー」という独特な歌唱法があります。ホーミーとは1人の人間が2種類の声(低い声と高い声)を同時に出す、緊張した喉から発せられる笛のような声のことを言います。また、モンゴル文字は世界的にも数少ない縦書きです。モンゴル国ではアルファベットのようなキリル文字を使うようになっていますので、伝統ある縦書きを受け継いでいるのは中国内蒙古自治区になります。
豊富な地下資源を背景に高いGDP成長率を記録しています
農業・畜産業を中心に鉄鋼・林業などもあります。主要な農作物は蕎麦です。日本の方にはあまり知られていないのですが、現在日本は蕎麦の約8割を中国から輸入しています。その生産量の3割超を占める最大の産地が内蒙古です。また、豊富な石炭(年間約5億トン産出)と天然ガスのほか、希土類(レアアース)の生産量は世界一になっています。
近年は、これらの豊富な地下資源を背景にとても高いGDP成長率を記録、2015年には、内蒙古1人あたりのGDPは上海、北京、天津についで第4位になりました。
1950年代、60年代、80年代、2000年代と農業開発ブーム
――中国における砂漠化、内蒙古自治区における砂漠化について教えていただけますか。
朝格 中国における「砂漠化」現象の約8割は新疆ウイグル自治区(以下、新疆)、内蒙古、甘粛省に集中しています。そのなかでも内蒙古の砂漠化の面積が最も大きいと言われています。内蒙古の面積は118万km2で中国全土の約8分の1を占めます。草地面積は内蒙古の80%を占め、中国全土の4分の1になります。利用可能な草地面積(国の政策で農民に分配されたもので国立公園など公共な部分を含まない)でも内蒙古は中国全土で最大になります。
しかし、その豊かだった草地も20世紀に入ってから、人口の大幅な増大に伴って、砂地は農地に開拓され、草地も過度の放牧によって、砂漠化が急速に進んでいくようになりました。中国経済が急成長していく過程のなかで、とくに内蒙古では1950年代、60年代、80年代、2000年代と農業開発ブームが4回起きました。このことが、内蒙古における「草地が砂地に一気に変わった」大きな原因と専門家は見ています。ちょうど70年代のころから全世界においても、砂漠化問題は重大な国際問題に発展していくことになります。
(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
朝格吉拉図(ちょうかく・きつり)
1980年中国内蒙古自治区通遼市生まれ。2010年東京農工大学大学院連合農学研究科修士課程修了。東京大学大学院農学生命科学研究科外国人研究生を経て、2017年筑波大学大学院生命環境科学研究科博士課程修了(環境学博士)。専門は地理学、地質学、惑星学など。筑波大学大学院生命環境系の研究員を経て、2018年4月よりアジア連合大学院機構 特任研究員。これまで地理情報システム(GIS)と環境リモートセンシング技術を駆使して砂漠化の解析や土地被覆の研究を行い、現在は「衛星リモートセンシング技術を用いたアジア地域における都市環境戦略に関する研究」を行っている。関連記事
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