2024年11月24日( 日 )

世界を変える「ブロックチェーン」と日本発の可能性(2)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

中国―先見性とスピードで世界を凌駕

 ここ数年、国家の規制にとらわれない企業連合の誕生に世界の耳目が集まるようになってきた。アマゾンにしてもマイクロソフトにしても国家の枠を超えた研究開発の動きを強めている。彼らは資金面でも人材面でも国家を超えた存在となる可能性を秘めているわけで、その動きを加速させつつあるのが「ブロックチェーン技術」である。となれば、ビジネスのあり方や国家の有り様も変わらざるを得ない。

 アメリカのクリントン元大統領といえば、ビジネス的嗅覚が人一倍鋭いことで知られる。言い換えれば、お金儲けには目がない存在である。そのクリントン氏曰く「ブロックチェーンは90年代末のeコマースに匹敵する。いや、それ以上かもしれない。まさに “金の卵を産むガチョウ”だろう」。というわけで、アメリカのみならず世界を回り、ブロックチェーン技術の伝道師のような旗振り役を務めているのがクリントン元大統領だ。

 とはいえ、この分野で最先端を走っているのは中国である。習近平国家主席曰く「ブロックチェーンと人工知能(AI)、そしてモノのインターネット(IoT)が世界の経済構造を変えている。中国はこの分野で世界No.1を目指す」。(中国社会科学院の17年次学界での発言)

 国家の肝入りということもあり、中国では国営中国中央電視台(CCTV)が18年6月の番組で「ブロックチェーンはインターネットの10倍の価値を生むだろう」と報道。その報道の直前となる4月には100億元(約1,697億円)を投じたブロックチェーン工業団地を開所し、というベンチャー企業も旗揚げした。

 それ以外にも、中国政府の動きは素早く、アリババ、テンセントといったIT企業と組んで、ブロックチェーンと分散型プラットフォームの開発を促進する決定を下し、国家予算の投入にも積極的な姿勢を見せている。この技術の応用分野は金融から医療、教育まで幅が広い。アリババとテンセントが出資した保険会社「衆案保険」(ZhongAn社)はすでに100以上の病院と提携し、診断記録、金融、支払い業務をブロックチェーンで行うサービスを始めている。

 日本ではあまり知られていないが、アリババはブロックチェーン技術に関する特許では世界一の座を占めている。何と、IBMやマスターカードより多い100近い技術特許を獲得済みだ。17年の国際特許406件(16年は134件)のうち、中国企業は56%を押さえているのである。

 「グレーター・ベイエリア」と呼ばれる香港、マカオ、深圳、広州地域では中国の中央銀行にあたる人民銀行が進める「ベイエリア貿易金融ブロックチェーン・プラットフォーム」の拠点化が着々と進んでいる。何かとアメリカから目の敵にされている感の強いファーウェイに至っては、18年11月から世界を相手にしたブロックチェーン・サービス(BCS)を立ち上げた。

 中国ではすでに263ものブロックチェーンに特化したプロジェクトが進行中である。これは全世界で展開されているブロックチェーン関連事業の4分の1を超えるシェアを確保したことを意味する。この新たなシステムの導入に関していえば、中国はアメリカをはるかに凌駕している。先見性とスピードの速さでは中国が官民一体の強みを発揮しているといえよう。現時点では金融業界が最も積極的な導入を図っており、中国では615の企業がサービスを提供中である。22年までには世界で117億ドルがブロックチェーンによって使用されるとの予測が専らだ。PwCの調査によれば、「3年ないし5年以内に、中国がブロックチェーン技術で世界をリードする」とのこと。残念ながら、日本の存在感が薄いのが気にかかる。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸 (はまだ・かずゆき

国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

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