2024年12月24日( 火 )

東京に進出してから35年-向き合ってきたのは自分の夢と現実のギャップ~手島建築設計事務所(5)

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夢をもち続けるとチャンスが生まれる

レジデンシア浅草追分外観

 東京に事務所を開いてから代表取締役会長・手島博士氏が向き合ってきたのは自分の夢と現実とのギャップだった。人生は厳しいこともたくさんあって、いつも夢を現実にできるとは限らない。だが、自分の夢をもつとそれを実現できるチャンスが生まれるという。

 たとえば、超高層の建物を設計することは、手島会長にとって、事務所を始めたころからの長年の夢だった。しかし、実績を評価され、なおかつチャンスに恵まれなければ、手がけられる仕事ではない。だから、すぐには実現できなかった。だが、調子がいい時も悪い時もあきらめずに夢をもち続けて心に描いていたら、何十年も経ってから、超高層マンションの設計という夢を実現できる機会に恵まれた。

 夢を実現できるチャンスは、いつ来るかわからない。だが、夢をもたなければ、夢を実現できるチャンスも生まれない。夢を実現したいという思いをもち続けていれば、チャンスがきたときに夢を現実のものにできると手島会長はいう。

 そして、いつの時代も世の中は前に進み続けている。企業は“現状維持”をしていれば、事業を続けられると考えられがちだが、そうではない。どんなときも、企業は前向きに歩み続けることが必要だと手島会長は考えている。世の中はいつも前に進んでいるから、もし、その場に立ち止まってしまえば、過去の世界にとどまり続けることになる。

 人は財産-社会的な立場や仕事、年齢で人を見ることはない

 人とのつながりは人生の財産だと手島会長は感じていて、ビジネスでの利害関係があるかどうかに関わらず、人とのつながりを大切にしているという。

 仕事や社会的な立場、年齢などで相手を判断することはなく、人柄や能力、人間性を見て人付き合いをすると手島会長はいう。人は外からパッと見てわかるものよりも、人となりや才能が大切だと考えているからだ。だから、どのような立場や年齢の人でも、優れた能力や人間性がある人はすばらしいとフェアに評価している。なかでも自分では思いつかないような考え方や自分にはない能力をもっている人を尊敬しており、つきあいのなかで学ぶことも多いそうだ。

 手島会長は人づきあいにおいて、常に人の役に立ちたいと感じており、自分に何かできることはないか考えているという。来る者は拒まず、去る者は追わず、世の中のあるがままを受け入れ、縁を大切にして多くの人と広く交流を深めている。

緩やかな坂道を登るのが、いい経営

 半世紀ものあいだ事務所を経営するなかで、さまざまな企業の栄枯盛衰を目にすることも多かったのではないだろうか。

 企業経営を山登りにたとえると、事業を広げて成果を上げる「坂道を登る」ことは大変だが、失敗して「坂道を転げ落ちる」のはあっという間だ。だから、大きな利益を追いすぎずに、緩やかな坂道を登る経営が自分のやりかたにあっており、長い目で事業を大きくするためには一番いい方法だと手島社長は考えている。大きな利益を上げようと急な坂道を登ると危険も多く、転げ落ちるリスクも大きくなるからだ。

 設計の仕事の一番のやりがいは、長い年月が経っても設計した建物が残ることだと手島会長は感じている。設計した建物が完成したときの仕事をやりきったという達成感はなにものにも代えがたいが、数十年まえに設計した建物をみると当時仕事に取り組んでいたときのリアルな思いがよみがえってきて感慨深いという。

 手島建築設計事務所の事業は拡大を続けており、いまでは社員とその家族をあわせると100名以上になるという。経営では、社員とその家族全員の生活を守ることを一番に考えており、そこが経営でいちばん難しいところだと手島会長は話す。

 いまの時代、社員とその家族の生活を守るという日本企業らしい経営姿勢をもたない会社も多く、会社と人との関係性も変わりつつある。そんななかでも、手島建築設計事務所は、社員とその家族を守りたいという日本企業ならではの姿勢をもち続けている会社だ。その姿勢が職場の空気にも影響しているのか、長く仕事を続けているスタッフが多いという。

 来年、手島建築設計事務所は創業50年を迎える。世の中に流されず、目先の利益を追いかけることなく、誠意のある仕事への取り組みが多くの人々からの信頼を生み、順調に業績を伸ばし続けている。また、何があっても前に進み続ける姿勢が原動力となり、数々の夢を現実のものにしてきた。これからの手島建築設計事務所は、どんなビジョンを実現させていくのだろうか。次の50年への歩みが始まろうとしている。

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【取材・文・構成:石井 ゆかり】

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