孫正義の秘密兵器~ソフトバンク300年ビジョン計画(2)
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国際政治経済学者 浜田和幸
インターネット時代を先取りした孫正義氏は数々のビジネスディールを成功させ、大富豪の地位を獲得した。2000年にはドットコムブームが到来するわけだが、その時点で彼の個人資産は全世界のインターネット関連企業の総資産の7%を占めるまでに急成長していた。なぜなら彼はインターネット関連企業100社以上に投資を重ねてきていたからである。
当時、孫正義氏の個人資産は毎週100億ドルずつ増えていた。その結果、世界ナンバーワンのビル・ゲイツ氏を上回る個人資産の持ち主となった。しかし、その栄光の座は三日天下で終わることに。なぜなら、インターネットバブルの崩壊で、ソフトバンクの株価は90%も暴落し、彼の個人資産700億ドルは雲散霧消してしまったからである。
しかし、孫氏は逆境に強い。厳しい事態に直面すればするほど、闘志が湧いてくるようだ。
彼の片腕と称されるゴールドマン・サックス出身のマイケル・ローネン氏に言わせれば「マサのように恐れを知らない人物は見たことがない。彼は奈落の底から何かを見出して這い上がってくる」。実際、逆境のなかで孫氏は「アリババ」を見出し、2,000万ドルの投資で同社の株式の34%を取得した。14年後には500億ドルに大化けしたのである。
そうした失敗と成功のジェットコースターのような人生を支えているものは何か。その深層に迫るヒントがある。彼は内外メディアによる数多くのインタビューや講演を通じて、自らの体験や未来ビジョンを語っている。筆者が注目したのは、同じ頃アメリカに暮らしていた関係で目にしたハーバード大学のアラン・ウェッバー氏のインタビュー記事である。
それは、1992年に出された「ハーバード・ビジネス・レビュー」の「日本式経営の極意:ソフトバンクCEO孫正義に聞く」と銘打った特集であった。そのなかで、孫正義氏は「脳みそは頭蓋骨より大事だ」と語っている。どういう意味か。「脳みそのなかにこそ知恵と知識が詰まっている」ということ。「身体のなかで最も大切なものが知恵と知識」というわけだ。
そのうえで、彼がいうのは「自分は日本中に知恵と知識を提供するビジネスでナンバーワンになりたい。そうは言っても、知識を扱う産業は幅広い。だから、PCの世界で知識を扱う分野に特化し、そこでの日本一を目指す」。大言壮語のように聞こえるが、よく聞けば、現実的な視点も忘れていないことがわかる。そこが彼の強みである。
当初、孫正義氏は40種類の新規事業を考えたという。彼にとっては「新たなビジネスモデルを考えることは新たなモノを生み出すこと」と同じことのようだ。それこそ、彼の趣味であり、最も楽しい時間の過ごし方なのであろう。
とはいえ、彼がほかと違うのは、考え付いたビジネスのアイデアのなかから「自分が今後、少なくとも10年間は絶対に飽きることなく日本一の座を追求し続けることのできる事業を選び抜く」という思いで、ビジネスの可能性を徹底的に分析するという点である。そのうえで、「今後30年から50年にわたって、成長が確実に期待できるビジネスを選び出す」という自信に満ちた未来志向こそが、彼の持ち味と言っても過言ではない。
そんな孫正義氏がことあるごとに強調するのが「300年ビジョン」である。人類と地球の300年後を常に意識しながら、最適の社会環境を整えることでビジネスを進化させるという発想である。彼が中学生のころに思い描いた「50年後の自分の姿」の拡大バージョンと言っても良さそうだ。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸 (はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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