2024年11月27日( 水 )

建設用の高力ボルトはどこへ消えた?(前)

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 「高力ボルトが入荷待ちで工事の予定が立たない。日々悪化している状況だ」―昨年秋ごろ、福岡県内のある経営者から、高力ボルトの不足にともない工期の遅れを懸念する声が届いた。首都圏を中心とした建設需要の高まりにともない、H形鋼などの鉄骨と鉄骨を締結するのに不可欠な高力ボルトの不足とその影響が、いよいよ福岡の建設市場でも顕著になってきているとのことだった。

 「原材料である鉄が不足している」「どこかで意図的に供給が抑えられている」―さまざまな推測が飛び交う中、データ・マックス社は、なぜこのような事態が生じたのか真相をたしかめるべく、改めて関係各所に取材を行った。

なぜ、高力ボルト不足が生じたのか

 (一社)日本鉄鋼連盟が公表している鉄骨需要量の年度別推移を見ると、日本国内における鉄骨需要量は年間およそ500万トン前後で推移。2014年から18年にかけては大きな変動は見られない。このうち高力ボルトの需要量はおよそ2~2.5%程度とされるが、(一社)鉄骨建設業協会(東京都千代田区)の関係者は、「東京オリンピック需要を含めても鉄骨需要量そのものが大きく変わっていないことから、建設需要が急激に高まったためにボルトが不足したというわけではなさそうだ」と話している。

 では、なぜボルト不足が生じたのか。(一社)全国鐵構工業協会(東京都中央区)は、「そもそもの発端は昨年の夏あたりから建設現場の工事が重なったことに起因すると思われるが、業界内ではすぐに手に入るものという認識だったボルトの需給感が、ある種“雰囲気的なもの”によって高まり、こうした事態に発展したのではないかと思います」と話している。

 ここでいう“雰囲気的なもの”というのは、一連の報道による調達不安のことを指している。東京都内でボルト・ナット・ねじ類の販売を行うN社は、「東京オリンピックに向けての建築需要、都心再開発需要の高まりはあったが、こうなるとは予想していなかった。“高力ボルトが不足している”という報道が出たことにより、各社がこぞって通常の発注量を増やしたのではないか」と話す。茨城県に本社を構えるボルト製造メーカーT社も、「昨年10月くらいだったと記憶しておりますが、“原材料である鉄が不足し、高力ボルトの生産が間に合わなくなる恐れがある”という話が出始めた。原材料の不足が要因ではないことは後で調べてみるとわかったが、報道各社が先行して“このままだと高力ボルトが不足する”と報じたことで、関係各社は調達不安から余計に注文してしまったのでしょう」と話している。

 T社は続けて、「我々の業界からしてみれば、ひとたび発注が頻繁に来るようになると、やがて生産ラインが追い付かなくなるかもしれないなというのはよく出てくる話で、これまでも全国のいろいろな業者が話を聞きつけて、本来1カ月分のオーダーで済むところを半年先のオーダーまで発注するということはありました。しかし高力ボルト自体が不足するという事態にまで発展したのは今回が初めてのことで、我々業界から見ても “謎”でした」と話す。

 これまでの話をまとめると、高力ボルト不足が生じる発端は、建設需要の急激な高まりに対して、ボルトの生産・供給量が追い付いていない点を報道したことがきっかけであることは間違いなかろう。先々の調達不安を懸念した関係各社は、通常より多めの量を一斉に発注、もしくは複数のメーカーに同時発注をかけたことで、もともとあった在庫が枯渇。高力ボルトの生産が追い付かず、建設現場で高力ボルトが不足するという事態が生じてしまったものと考えられる。

建設現場では工期の遅れも

 (一社)鉄骨建設業協会(東京都千代田区)は、「協会員から、通常2カ月の納期が半年先や1年先になっているという声が出ています。これまで2カ月前に発注すれば間に合っていた高力ボルトが、前もって発注をかけたとしても、納品に8カ月から10カ月程度かかってしまっているようです」と話す。

 福岡市内で主に戸建住宅の建築を手がけるS社も入荷が長期化している点に触れ、「高力ボルトの不足によって、小さな工事物件だと、鉄骨造(S造)から鉄筋コンクリート造(RC造)に変更したものもあると聞きます。大手と呼ばれる建設会社は専門の商社をもっていますから不足感はそこまでないと思いますが、我々のような中小企業は調達そのものが厳しく、単発の工事でボルトが必要だという場合はなおさら厳しいでしょう」と話す。前述のN社は、「都内では最大18カ月待ちというところもあるようだ。ゼネコンに納品するだけでもそれなりの量があるため、おそらく単発での需要は受け付けられない状態であろう」と話す。

 高力ボルトの納期遅れにともない、建設現場では工期の遅れが出始めているという声が各所から聞かれた。(一社)全国建設業協会(東京都中央区)は、「鉄骨の製作はできても、建て方をするときにボルトがないため、工事がいったん中断してしまうという事態が発生しています。施主の同意了承が得られたとしても、現実問題として工期を延ばしてもらっているという事態はすでに各地で起こっており、通常5カ月でできる建物が8カ月もかかってしまうというような事態も報告されています」と話す。

 三重県松坂市では、市が発注した松阪市クリーンセンターの資源物保管庫について、2回にわたって工期を延長。市によると、当初今年2月28日の完成予定だったものが、建設工事業者から「高力ボルトが全国的に不足しており、調達ができないため工期に間に合わない」との報告を受けて工期を延長。

 「いったんは年度内(3月29日)に工期を設定したものの、高力ボルトの納品がいつごろになるのか、具体的な時期が読めない状況下であり、結果的に間に合わなかった」としている。幸い、3回目に設定した工期には工事を無事に済ませることができたというが、松坂市では当面、こうした状況を踏まえて、工期が度重なって延期することのないよう発注を行っていくとしている。

(つづく)

【長谷川 大輔】

(後)

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