2024年11月30日( 土 )

2020年3月「アジア共同体ネットワーク評議会」設立!(前)

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 21世紀の東アジアはどこに向かって行くのか。日本、中国、韓国などの東アジア諸国は、地理上の近接性と経済社会的な相互作用の緊密化を通じて、すでに一蓮托生の関係にある。

 一方で、運命をともにするはずの東アジア諸国は、さまざまな問題をめぐり、今なお反目を続けている。このままでは、東アジアという船は、乗員の対立により、まったく前進できないまま沈没しかねない。今、東アジア諸国すべてに共有される具体的な目標や指針の設定が喫緊の課題となっている。

 この課題を解消するために「アジア共同体ネットワーク評議会」(当初は東アジアの日中韓を中心に)が2020年3月に設立される。共同代表(日本)に就任する予定の鹿児島大学法文学部教授(東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表)の木村朗氏に聞いた。

鹿児島大学法文学部 教授 木村 朗氏

アメリカ中心の「弱肉強食」の金融資本主義が世界化した

 ――本日は2020年3月に設立される「アジア共同体ネットワーク評議会」(当初は東アジアの日中韓を中心に)について、色々と教えていただきたいと思います。その前にまずは、現在の日本・世界を俯瞰していただけますか。

 木村 朗氏(以下、木村) 冷戦終結後の世界は「グローバリゼーション」の名のもとに、新自由主義、新国家主義(新保守主義)というイデオロギーを背景に、アメリカ中心の「弱肉強食」の金融資本主義が世界化しつつあります。その流れのなかで、各国内で、新しい身分制社会が到来し、格差が急速に拡大しています。とりわけ、9.11(2001年)以降の世界は、「ルールとモラルなき社会」となり、戦争国家化、警察国家化が急速に進んでいます。

 これは、資本主義が行き詰って、従来であれば曲がりなりにも両立できた、民主主義との両立ができなくなったことが根本原因です。その結果、世界各国とも、かなりむき出しのファシズム的強権支配に移行しています。

 日本も例外ではありません。日本社会は3.11(2011年)の東日本大震災と福島原発第一事故以降、これまでのあり方とはまったく異なるものへと大きく変貌しています。それは、端的にいえば、「民主主義からファシズムへの移行」「平和(志向)国家から戦争(志向)国家への転換」といえます。

日本は戦前と同じ「戦争とファシズムへの道」を歩んでいる

 ――今、「民主主義からファシズムへの移行」と言われました。現時点で、日本にファシズムの兆候があるということですか。

 木村 私は大学院時代からファシズムの研究をしています。共編書として『21世紀のグローバル・ファシズム~侵略戦争と暗黒社会を許さないために』(耕文社)、『「開戦前夜」のファシズムに抗して』(かもがわ書店)も出しています。現時点での私の現実的な認識として申し上げるならば、ファシズムの成立に関し下記の7つの条件を挙げることができます。

 第1番目が、経済危機の深刻化を背景とした社会の分断・二極化です。経済不況下での失業と貧困の増大、貧富の極端な格差拡大を背景に、新旧中間層が没落し、非正規労働者・貧困者・自殺者が増え、地域共同体や中間団体が崩壊して、個人がアトム化される状況が生まれています。

 第2番目は、政治(国会、議会)の機能不全です。一強多弱のなかで、大政翼賛状況が現実に生まれ、3権分立が崩壊しつつあるといっても過言ではありません。

 第3番目は、メディアの劣化と機能不全です。とくに3・11以降、大手マスコミと権力が一体化した恐るべき大本営発表的な状況がずっと続いています。

 第4番目は、司法の劣化と暴走です。度重なる冤罪・誤判や国策捜査・政治裁判は日本の刑事司法の後進性、すなわち人権感覚の欠如と制度的腐敗を表しています。

 第5番目は、教育の国家主義的統制と軍事化です。この動きは、効率・競争重視の新自由主義原理の導入と連動して全教育課程・現場で起きています。

 第6番目は、国民の多数派の沈黙心と少数派の熱狂の同時進行です。社会の分断・二極化によって、共同体が崩壊し、バラバラに孤立化された個人が、強い指導者や強い国家を求める大衆心理が生まれています。

 第7番目は、日本の際限のない対米従属と国際的な孤立です。日本は対米従属を深める一方で、その反動として世界、とくにアジアから次第に孤立しつつあります。

 以上、ファシズムの7つの成立条件を考えてみれば、現安倍政権が戦前と同じ「戦争とファシズムへの道」を歩んでいるという懸念を抱くのは私ばかりではないでしょう。

鳩山政権が提起した「東アジア共同体構想」が大きな注目

 さて、東アジア共同体構想のもともとの起源は1990年にマレーシアのマハティール首相が提唱した「東アジア経済協議体(EAEC)」、1997年のアジア通貨危機の際に当時の橋本首相が提唱した「アジア通貨基金(AMF)構想」にあります。さらに、最も具体的な構想としては、鳩山民主党政権が提起した「東アジア共同体構想」があります。

 この構想は東アジア地域での経済統合と恒久的な安全保障の枠組みをつくることを目指すもので、日本国内外で大きな注目を集めました。加えて、既存の外交の取り組みとしては、東アジア首脳会議(2005年~現在)や東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日中韓)があります。現段階では、東アジア共同体はいまだ構想の域を出ていませんが、21世紀の世界において、東アジアのみならず、アジア地域全体の「国際的共同体」の出現は自然の流れとなるでしょう。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
木村 朗氏(きむら・あきら)

 1954年生まれ。鹿児島大学法文学部教授。日本平和学会理事、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表、東亜歴史文化学会副会長、国際アジア共同体学会常務理事。著書として、『危機の時代の平和学』(法律文化社)、共編著として、『沖縄自立と東アジア共同体』(花伝社)、『沖縄謀叛』(かもがわ出版)、『「昭和・平成」戦後日本の謀略史』(詩想社)
『誰がこの国を動かしているのか』、『株式会社化する日本』(詩想社新書)など著書多数。

(後)

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