2024年11月25日( 月 )

HIS、ユニゾHDの敵対的買収に発展~それぞれが抱える表に出せない裏事情(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

澤田氏の痛恨事、50億円の投資詐欺事件

 澤田秀雄氏が、ユニゾHD採りに動いたのは、ある不祥事の汚名返上と受けとられた。

 大型リゾート施設ハウステンボス(長崎県佐世保市)は5月21日に臨時株主総会と取締役会を開き、澤田秀雄社長(HIS社長)の退任を決定、澤田氏は代表権のない会長に退いた。

 澤田氏の退任のために臨時株主総会を開いたわけだから、事実上の解任といえる。M資金まがいのリクルート株50億円投資詐欺事件が関係しているとみられた。

 澤田氏が50億円の詐欺被害に遭った事件とはこういうものだ。昨年2月、HTBで金に裏付けられた電子通貨(テンボスコイン)を企画した際、金の調達を一手に引き受け、澤田氏に高く評価された金取引会社社長・石川雄太氏のもとに、こんな話がもちかけられたことがきっかけだった。

 「リクルート創業者の江副浩正氏が安定株主対策として預けた株が財務省に大量に保管されている。財務省とリクルートの承諾があれば、ワンロット50億円といった大口に限り、市価の1割引き程度で供給される」といった内容。

 瞬時に5億円の利益がもたらされる。およそ眉唾ものの話だが、よほどセールストークがうまかったのか、石川氏はワンロットの購入を決め、澤田氏に相談して資金提供を受けた。

 リクルート株投資は昨年5月から3回に分かれて行われたが、そもそもが詐欺話。50億円を騙し取られてしまった。

 石川氏は18年11月、約58億円の支払いを求めて、投資話に関与した8人を東京地裁に提訴した。現在公判中だ。その石川氏に50億円を提供したのが、HTBの澤田秀雄氏だった。

 東証上場へ向けて準備を進めているHTBとしては、詐欺被害の原資が、澤田氏の要請でHTBから出ていることは、上場審査が不合格にされかねない不祥事だ。

 澤田氏は3月1日、HIS株120万株を売却、約53億円を得て、HTBに返済。HTBに実害はなかった。

 旅行業界の“風雲児”と賞賛されてきた澤田氏にとって、50億円の詐欺被害に遭ったのは、実業家人生の最大の汚点となった。「詐欺師に手玉に取られるとは、澤田氏もヤキが回った」と評価を下げた。

 「投資家・澤田、健在なり」。それをアピールするため、ユニゾHDのM&Aを仕掛けた。「ホテル王」への野望を達成できるだろうか。

ユニゾ、米ファンドをホワイトナイトに招く

 ユニゾHDは8月16日、HISから仕掛けられた敵対的TOBへの対抗策を発表した。

 ソフトバンクグループ傘下の米国の不動産投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループがホワイトナイト(白馬の騎士、友好的な第三者の買収者)としてHISのTOB不成立を担う。

 発表によると、フォートレスは最大でユニゾHD株を100%買い付ける。買い付け価格は1株4,000円。HISのTOB価格3,100円を29%上回る。投資額は最大で1,368億円にのぼる。買い付け期間は8月19日から10月1日までを予定。全株を取得して上場を廃止する。

 フォートレスはソフトバンクグループが17年に3,700億円で買収し、傘下に収めた。09年以降、東京ディズニーリゾートにあるシェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテルなどに約6,000億円を投資した。

 ユニゾHDはHISに対抗するため水面下でホワイトナイトを探していた。企業や投資ファンド16社と接触。最終的に4社が残ったが、「フォートレスは当社の経営方針を尊重しており、オフィスビルやビジネスホテルへの投資の豊富な実績がある」ことから、フォートレスに絞り込んだと説明している。

 今回のM&Aのポイントは、フォートレスが全株取得して、ユニゾHDを上場廃止にすること。ユニゾHDは旧興銀(現・みずほ銀行)系の不動産会社。同じみずほ系の不動産会社ヒューリックなどが対抗TOBを実施して、みずほ系不動産会社の再編につなげるのではないか、という観測があった。

 だが、ユニゾHDの小崎哲資社長は、古巣のみずほとは犬猿の仲。「脱みずほ」を推し進めてきた。フォートレスをホワイトナイトに招いたのは、HISの買収を防ぐのと同時に、非上場化して、みずほのくびきから抜け出すことにある。力点は明らかに後者。「脱みずほ」の総仕上げだ。

 みずほ時代に、「二重持株会社」や「1兆円増資」という奇策でみずほを救った小崎氏ならではの大胆な策だ。希代の策士と評される小崎氏の面目躍如である。

 HISはTOBを8月23日まで実施中。期間を延長して、TOB価格を引き上げるのか。

 ユニゾHD株の2~3割を保有しているとされるみずほグループ系の企業は、フォートレスのTOBに応じて全株を売却するのか。それとも、売却に応じず、TOBの不成立を狙うのか。取得株式が3分の2を下回ると、TOBは不成立となるからだ。

 キャスティングボードを握るのが、ユニゾHD株の9.9%を保有している「物いう株主」の米エリオット・マネジメント。フォートレス=ユニゾHD側のTOBに応じ高値で売り抜けるのか、HIS側にTOB価格の大幅な引き上げを求め共闘するのか。あるいはフォートレス側のTOB不成立に手を組み、みずほ側に貸しをつくるのか。TOB期間の10月1日まで、それぞれの思惑が交差して、虚々実々の駆け引きが繰り広げられる。

(了)
【森村 和男】

(中)

関連キーワード

関連記事