2024年11月17日( 日 )

監訳者に聞く 「MMT(現代貨幣理論)」とは何か?(5)

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経済評論家((株)クレディセゾン主任研究員) 島倉 原 氏

財源も含めた地方分権は間違い

 ――地方自治体も政府の緊縮財政の被害をこうむっている?

 島倉 こうむっていますね。緊縮財政によって、交付税などを削られています。税収の再分配の仕組みをもとに戻さないと、東京一極集中の流れは止まらず、大都市圏以外の地域は衰退していく一方だと思います。

 『MMT入門』のなかにも、地方分権の話は出てきます。それぞれの地域に合った政策を地域に根ざした人々が主導的に行うことは必要なのですが、それとお金の話は別なんです。JGPでも、中央政府はお金を出すだけで、どんな仕事をするかは地方自治体に任せるという仕組みが提唱されています。

 地方分権というと、財源も含めてすべて地方自治体に任せるという流れになっていますが、中央政府に通貨発行権があることを考えると、それは間違いです。同じ政府でも、地方自治体は、企業や家計と同様、通貨の利用者に過ぎません。中央政府とはまったく立場が違うので、同じ尺度で中央政府と地方自治体の財政を語ることはできません。

 こういうと、当たり前のことだと思うかもしれませんが、今の日本は「中央政府ですら赤字はダメ」という空気になっているのでこうした当たり前のことが理解されず、中央政府と地方自治体の役割分担に関する議論が混乱しているように思います。

 ――公共サービスである空港の運営などを民間委託するケースが増えています。

 島倉 公共サービスのなかには民間委託した方が事業としてうまく行くケースもあるかもしれませんが、地方自治体が財政的な負担を減らすために公共サービスを民間委託するのは本末転倒であり、緊縮財政が生んだ歪みの1つだと思います。地方自治体が財政的に負担が大きいという理由で公共サービスを民間委託した場合、受託した民間企業は料金を値上げするか、場合によってはサービスレベルを低下させてまで運営コストを削減して利益を確保しようとする可能性がありますが、いずれにしても住民にとってはデメリットです。

 地方の公共的なサービスについても、中央政府が財政的にバックアップする必要があると思います。地方自治体が自前でサービスを提供した方が良いのか、民間に委託したほうが良いのかは、財源とは別の話です。

 ――地方の疲弊はとどまるところを知りません。

 島倉 今疲弊しているのは、総じて財政支出が拡大していない地域です。財政支出が伸びている地域はそれなりに成長していますが、支出が滞っているところは停滞し、地域格差が生まれています。

消費税10%は長期的な経済の停滞をもたらす

 ――10月1日から消費税が10%に増税されました。

 島倉 消費税増税は、短期的にはリーマン・ショックや東日本大震災並みの経済的なショックを与えます。通常のショックであれば、影響は一過性で、その後は回復局面が訪れますが、消費税は引き続き消費を抑制するので、経済の長期的な停滞をもたらします。

 現在は、過去20年間のうちで最も消費が停滞しています。2014年に消費税を8%に上げた影響です。消費税増税によって物価は強制的に上がったけれども賃金はさほど伸びていません。さらなる消費税増税によって今の消費がさらに停滞すれば、経済活動に甚大なダメージを与える可能性もあります。

 消費税増税は、国内所得の合計であるGDPから政府の取り分を増やす行為です。つまり、企業の利益や家計の所得はその分削り取られます。利益を削られた企業が雇用や賃金を抑制すると、家計は所得が減って生活が苦しくなり、消費を抑制します。すると、企業の売上は伸び悩み、ますます利益が縮小します。消費税増税は、このような悪循環をもたらします。

 ――消費税増税も緊縮財政の歪みの1つ?

 島倉 消費は投資と比べて景気変動の影響を受けにくいため、消費税は景気変動に左右されにくい安定財源と言われています。ですが、政府にとって安定財源ということは、景気が悪いときにも民間から税金を搾り取れるということなので、民間からすれば傷口に塩を塗られたようなものでしょう。そう考えると、それが通貨発行権を有して支出能力に制約がない政府の行為として正しいことなのかは、はなはだ疑問です。

(了)
【大石 恭正】

<プロフィール>
島倉 原(しまくら・はじめ)

 (株)クレディセゾン主任研究員。1974年、愛知県生まれ。97年、東京大学法学部卒業。(株)アトリウム担当部長、セゾン投信(株)取締役などを歴任。経済理論学会および景気循環学会会員。会社勤務の傍ら、積極財政の重要性を訴える経済評論活動を行っている。著書には『積極財政宣言─なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論)など。

<まとめ・構成>
大石 恭正(おおいし・やすまさ)
立教大学法学部を卒業後、業界紙記者などを経て、フリーランス・ライターとして活動中。1974年高知県生まれ。
Email:duabmira54@gmail.com

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