2024年12月05日( 木 )

公民連携、ふるさと納税を巧みに活用し「健幸長寿のまちづくり」を推進(前)

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佐賀県三養基郡みやき町 町長 末安 伸之 氏

 全国の地方自治体が自立を目指して施策を模索するなか、幾多の民間企業とコラボレーションすることで、いま日本全体が抱える人手不足、高齢化の問題に果敢に挑戦しているのが、佐賀県三養基郡のみやき町だ。しかもそれらの取り組みはすべて町民の健康を増進することにつながるという。旗振り役である末安伸之町長にお会いし、企業からの提案を柔軟な姿勢で受け止め、さらに誘致を積極的に行うほか、公民連携、ふるさと納税を活用したGCFなどを巧みに活用し、両者のWin-Winな関係を見事なまでに構築しているみやき町の現在をうかがった。

(聞き手:内山 義之)

 ――各種のメディアで取り上げられるなど大変注目されていますが、まずはどういった考えのもとに動いているかをお話しください。

佐賀県三養基郡みやき町 町長 末安 伸之 氏
佐賀県三養基郡みやき町 町長 末安 伸之 氏

 末安伸之町長(以下、末安) これまで旧3町が掲げてきた「平準化・融和・協働」のもと、第1次総合計画および第2次総合計画の基本目標に沿った行政運営を行っています。重点目標には「定住総合対策事業」「子育て支援のまちづくり」「健幸長寿のまちづくり」がありますが、昨今は公民連携のプロジェクトに力を注ぎ、それぞれの加速化を図っています。

 とくに「定住総合対策事業」においては、民間が事業主体になり、その資金やノウハウを生かして公共事業を行うPFI(Private Finance Initiative)方式による「定住促進住宅」の整備や、「土地の分譲・住宅建設」「企業誘致」がとても順調で、自治体や企業の視察が絶えません。

 また、「子育て支援のまちづくり」では 学校給食費の完全無償化や18歳までの医療費補助を実施するとともに、産前産後のケアや子育てサポート事業を推進することで、そうした世代から選ばれるまちづくりを目指していますが、昨年度は6年連続の転入超過、さらには旧3町時代から続いていた人口減少に歯止めをかけ、22年ぶりの人口増となったところです。

 そして「健幸長寿のまちづくり」については、面白い取り組みを続々と打ち出していますので、ぜひ詳しくお伝えしたいところです。

 ――そうした指針からはみやき町の独自性が感じられます。実際にはどういった取り組みがなされているのでしょう。

 末安 まずはビジネスの視点から公民連携についてお話ししましょう。現在、40社以上と連携協定を締結し、そのうちの十数社とはビジネスパートナーとしてとても良い関係を築けています。

 とくに活発なのは農業分野です。後継者不足から起こる農地荒廃が全国的な問題として取り上げられていますが、そのスピードがどんどん速まっているという現状があります。もちろんみやき町も例外ではありません。そこで問題を解決すべく私たちはスマート農業に着目しました。

 AI・IoT・ビッグデータプラットフォームのマーケットリーダーとして知られる民間企業とタッグを組んだのが、「スマート農業アライアンス」です。ここではGCF(ガバメントクラウドファンディング)を活用します。ふるさと納税制度を活用して行うクラウドファンディングです。寄附金の使い道を可視化し、プロジェクトに共感した方から寄附を募る仕組みですが、地方自治体として初めての取り組みですからとても注目されています。

 具体的にはドローン・AI・IoTを利用し、高付加価値の農作物を生産し、流通・販売を行っていくことが目標です。町内の生産者の農地を、ドローンを使って空中から解析します。人間の目ではなかなか察知できないものをコンピューターの力を借りて見ていくわけです。ウンカの発生やいもち病の兆候が見られれば農薬を散布しますが、反対に何の兆候もなければ農薬散布をやる必要がないと判断できます。経費削減ができるのはもちろんのこと、農薬を使わなければ無農薬米として価値を高めていけます。

 前回の試験的な取り組みでは、農薬散布の必要なしということで大幅な農薬代のコストカットができました。さらには無農薬米ということで約3倍の価格で販売できましたから、「スマート農業アライアンス」の効果たるやご説明するまでもないでしょう。今後は、これをみやき町全体に広げていきます。

 その前提として研究者や商社と強固な協力関係を築くための法人を立ち上げたところです。

 もう1つ、公民連携に関係する面白い話題としては、みやき町内に工場を誘致した国内最大手の漬物メーカーからオファーがあり、漬物の素材となる農作物の契約栽培を行うための産地化を進めています。

 当時、久留米市と東京都内に拠点を構える老舗化学薬品商社から共同して農業法人の立ち上げの依頼を受けておりましたので、まず、農業法人「みやきファーム」を立ち上げました。

 その際、私から要求したのは、まずは従業員を2名派遣してくれ、そして机上ではなく実際に汗にまみれてやってくれということでした。産地化を実現するためにはやはり、みやき町のことをよく知ってほしい、どういう気持ちで取り組んでいるか、そういう想いを共有してもらいたい。町としても新規に地域協力課という部署を設け、町役場の職員とともに野菜づくりをやってもらいました。

 そうした努力の甲斐もあり、すばらしい野菜ができましたので、いまは産地の拡大という次のステップに入っています。

(つづく)
【文・構成:天野 祐次】

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(後)

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