武漢コロナウイルスの周辺(中)
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武漢研は、SARSの発生経路を研究する際、これらのコウモリ由来の各種のウイルスが他の動物やヒトに感染していく状況について詳しく調べてきた。武漢研の研究者は、中国各地や周辺諸国を回り、コウモリやその糞尿などを採取し、そこからウイルスを分離して調べてきた。コウモリがもっていたウイルスを、研究所内で他の動物に感染させてみる動物実験も繰り返されてきたはずだ。
中共がSARSの原因解明・再発防止に熱心だったほど、ウイルスの採取や動物実験も熱心に行われてきたと考えられる。各地のコウモリから採取されたウイルスは多種多様で、そのなかに今回の新型コロナウイルスが含まれていたとしても不思議でない。
(参考:Severe acute respiratory syndrome - Wikipedia)
(参考:How Do Bats Live With So Many Viruses?)今回の新型ウイルスが、どこかの山でコウモリから野生哺乳類に移り、その動物が武漢の野生市場で生きたまま(宿主の動物が死ぬと間もなくウイルスも死ぬ)売られている間にヒトに感染し、潜伏期間中のヒトから他のヒトに急速に拡大して今の事態になったという「自然発生」の可能性はもちろんある。
しかし同時に武漢市には、厳重に封じ込められている状態であるが、ヒトに感染しうるコウモリ由来の多数の危険なコロナウイルスが存在する場所としてウイルス研究所が存在している。これは偶然の一致なのか?ウイルスが研究所から漏れた「人為発生」の可能性はゼロなのか。
(参考:India To Probe Wuhan Institute Of Virology)
実のところ中国では、SARSの発生経路を研究する過程で、04年4月ごろ4回にわたり、北京の研究施設からのSARSウイルスの漏洩が起きている。
SARSに対する研究は当初、北京の国立ウイルス学研究所で行われていた。
この研究所では、生きたSARSウイルスを使った研究をバイオセーフティーな実験室で行い、実験の後、ウイルスを不活性化(熱湯やアルコールで殺す)してから一般の実験室に移していたが、不活性化の処理をした後、本当にウイルスが死滅した不活性状態になっているかという検査が不十分で、一部のSARSウイルスが人に感染しうる活性化した状態のまま一般の実験室に移して置かれたため、通りかかった無関係な職員らがSARSに感染し、感染を知らないまま実家に帰った看護師の1人が実家で発症し、看病した母親が感染・発症して死ぬ事態など、ウイルス漏洩事件に発展した。
この事件は報道され、ウイルス研究所の所長ら幹部5人が処罰された。(参考:Officials punished for SARS virus leak)
ウイルスの研究施設の所員の感染による漏洩事件は、人類のウイルス研究の歴史とともに古い。
たとえば英国では、1963-78年に天然痘の研究機関で所員が感染して外部にウイルスを漏洩する事件が80件も起きている。この間、天然痘の発生地域からの帰国などによる自然発生は4件だけだった。
当時の教訓からその後、米英などの主導で世界的に実験室のバイオセーフティーの強化が行われた。SARSに関しても、中国だけでなく、台湾とシンガポールの研究所で03年中に1回ずつ、所員の感染によるSARSウイルスの漏洩が起きている。SARSはその後、自然界経由で再発していない。
(参考:A brief, terrifying history of viruses escaping from labs: 70s Chinese pandemic was a lab mistake)
中国でのSARS研究は、発生後しばらく北京のウイルス学研究所が中心だったが、その後、2017年に武漢のウイルス研究所にバイオセーフティーの最高レベルであるレベル4(BSL-4)の研究施設が新設され、武漢に中心が移った。
レベル4の施設は武漢が中国初で、北京はレベル3だった(SARS研究の中心を北京から武漢に移転した理由は不明だが、発生地の華南に近く、コロナウイルスに関係しうるコウモリや野生動物を入手しやすいからか、もしくはウイルス漏洩が起きるなら首都の北京でなく遠くの地方都市のほうがましだからか?)。
中国にはもう1つ、北辺のハルビン市にある中国農業科学院ハルビン獣医研究所にもレベル4の実験施設が18年に完成し、こちらは鳥インフルエンザを中心に研究している。
(参考:China launches high-level biosafety lab)
(つづく)
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