2024年12月22日( 日 )

恩讐の彼方に~公私混同の創業者との決別

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3期で売上倍増

office 杉原(仮名)は今の会社に入社して18年になる。元々、営業畑を歩いてきたのですぐに営業課長を仰せつかった。18年間に新しい顧客の開拓の実績を確保した。話は4年前になる。創業者社長畠山(仮名)はやる気を失くしていた。やることなすことが裏目にでて会社は八方ふさがりの状態に陥っていた。「社員を幸福にさせるための会社づくり」と強調するのであるが、現実の経営才覚はピンと外れていた。平凡な経営策しか講じることができていなかったのである。要は経営能力が乏しかったのだ。

 ある日の夕方、杉原は畠山から「相談がある。一杯やろう」と誘われた。一杯交わす和食の店の一室で社長就任を打診された。「杉原部長、今の状態では会社は潰れる。君の力で会社を再生させてくれ!!社員達を路頭に迷わすわけにもいかないからな」と懇願された。
 一番、責任感を抱いたのは「社員たちのため」という言葉に対してであった。杉原も「確かにこのようなジリ貧状態であればいずれ会社は行き詰る」という懸念を抱いていたから「よーしゃ、社長!!引き受けましょう」と即断即決を行った。

 職を任されたら徹底的に任務遂行するのが杉原の信条である。まずは社員達と「会社再生」の旗印を掲げて強固な意思の一致を図った。杉原自身は陣頭指揮を執ってお客廻りに専念した。結果、売上は3期で倍増させて30億円になった。当然、利益もでる。職場の雰囲気も明るくなる。社員達も「我々の力で会社を立て直した」と自信に満ち満ちるようになった。杉原は畠山に退職金4,000万円を払い、取締役から外れる処置をした。株の名義変更にはまだ着手していなかった。

公私混同に対する逆鱗した全社員達

 今まで全く会社に出入りしなかった畠山の妻が顔を見せるようになった。杉原は経理担当者から次のような驚くべき情報を伝えられた。「前の社長(畠山)の奥さんが会社のカードで買い物しています。そのカード払いが会社に廻ってきていますが、おかしくありませんかね?」。
 杉原は愕然とした。「まだそういう公私混同のことを許していたのか!!」と怒りが込み上げてきた。当然、畠山に強く抗議した。「妻の買い物は大した金額でないから面倒をみてくれよ」と頼みの返事があった。「会社に関係ない貴方の奥さんに1円でも与える金はありません」と詰問した。この杉原の凄い剣幕に圧倒された畠山は「もう絶対、カードを使わせない」と渋々承諾し、杉原は強引に奥さんからカードを取りあげた。

 次の事態はまさしく事件である。畠山は杉原に無断で金を貸し付けていたことが判明した。畠山が友人の会社へ3,000万円資金支援をしていたのである。経理担当者も前社長の命令に逆らえなかった。「自分に社長を託すと言いながら会社の業績が回復すればこんな我が顔づくりのことばかりやる。だから経営がピンチになったのだ。もう許されないな。決断・断行の時期だ」と杉原は腹を括った。

 全社員を集合させて事の経緯を暴露した。「皆さんの英知と健闘精神を結集して素晴らしい会社に変貌しようとしています。ところが前の社長は勝手に融通させて3,000万円焦げ付きが発生しました。もうこのような横暴は許すことはできません。畠山さんと完全に縁を切りたいと思います」と提案した。社員達からが「異議なし」という賛成意見が発された。
 この同意を踏まえて杉原は3,000万円の返済を求めた。具体的には資本金を買い取ることでお互いに了解に達した。杉原は完全に会社を買い取ることに成功したのである。

 

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