日本発の「折紙工学」産業化に向けて離陸へ(2)
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明治大学研究・知財戦略機構特任教授 萩原 一郎 氏
折り紙を知らない人はいないが、「折紙工学」のことを知っている人はどれだけいるだろうか。折紙工学は実は日本発の研究分野で、紙おむつから宇宙ステーションのアンテナまで、さまざまな製品で折り紙の特性が生かされている。折紙工学の第一人者が、明治大学研究・知財戦略機構特任教授/先端数理科学インスティテュート&自動運転社会総合研究所所員、東京工業大学名誉教授の萩原一郎氏である。荻原氏が目指すのが、大量生産を可能とする産業化だ。
折紙工学を応用した紙おむつが製品化
折紙工学を基に実用化された製品も登場してきている。
萩原氏は、衛生用品の大手メーカー、ユニ・チャーム(株)と共同で、平面の紙を立体的に表現する「折紙工学」を応用してフィット感を高めたベビー用の紙おむつの研究を行い、赤ちゃんのからだに合わせて変形する吸収体を共同開発した。
研究の背景には、低月齢期特有の「ゆるうんち」が、足を伸ばした時と座った時でおむつの密着度が違うため、紙おむつの隙間やズレによって、モレが多く発生していたことがあった。これまでは、足を伸ばした時、座った時のどちらかを参考におむつをつくっていた。モレを低減するため、付け方が工夫されているが、人によってモレ率が変わってしまうというのが実態だった。そこで、ユニ・チャームは折紙工学に着目し、赤ちゃんのからだに合わせた紙おむつの形状に焦点を当てたのである。
折紙工学の研究は前述のように、(1)見たものを折り紙にする折紙設計、(2)折紙構造の軽くて強いという特徴を生かした設計・製造、(3)折紙構造の展開・収縮できるという特徴を生かした設計・製造の3分野で行われている。今回の製品化は、(1)の見たものを折り紙にする折紙設計というアプローチからのものだ。
研究では、萩原氏らがつくり上げた世界初の折紙設計システムを使用し、足を伸ばした時、座った時の2つの状態の赤ちゃんの人形を使って、胴回りと股間周辺を3Dスキャンし、その画像から3次元データを作成した。この3次元データを基に、前部・後部・脚部・下部と4つに分離された股間部の展開図つくり2次元化した。
展開したパーツから、とくに「複数のパーツで構成される股間部分」に注力し分析。股間部分に集合する複数のパーツを組み合わせ成型すると、股間部分に「身体の内側に向かって複雑な凸形状が密集」していること、そして腹側に「1つの凸状の頂点ができる」ことを発見した。共通の伸び縮みすべき伸縮部があることがわかったのである。
展開図からおむつをつくるなかで、固定部分と曲げられる部分の基本構造を明確にすることができた。これにより、足を伸ばしたときも座ったときも都合の良いおむつができたのである。
この成果は、2019年4月25日から全国で発売された「ムーニー エアフィット」「ナチュラル ムーニー」の改良に応用されている。さらに、この研究成果は高齢者用やペット用などにも拡張されているところだ。
紙おむつ以外に折紙工学を応用した製品化の例にはヘルメットがあるし、ペットボトルでも開発段階にある。一品生産で産業化はされていないが、人工衛星でのアンテナなどにも応用されている。このほか、ソーラーセイル(太陽光などを反射することで宇宙船の推力に変える装置)、血管内の掃除をする超ミクロの医療器具、衣服、防災用品など、幅広い分野での応用が研究されている。折紙工学を生かしたさまざまな製品が登場してくるのはまさにこれからでる。
(つづく)
【本城 優作】<プロフィール>
萩原 一郎(はぎわら・いちろう)
京都大学工学研究科数理工学専攻修士課程修了。1972年4月日産自動車(株)に入社、総合研究所に勤務。東京工業大学工学部機械科学科教授、上海交通大学客員教授兼同大学騒音・振動・ハーシュネス(NVH)国家重点研究所顧問教授、東京工業大学大学院理工学研究科機械物理工学専攻教授。2012年4月から明治大学研究・知財戦略機構特任教授/先端数理科学インスティテュート&自動運転社会総合研究所所員、東京工業大学名誉教授、工学博士。
日本応用数理学会名誉会長、日本機械学会フェロー、米国機械学会・自動車技術会・日本シミュレーション学会フェロー。
【受賞】日本応用数理学会業績賞「計算科学・数理科学援用折紙工学の創設と展開」ほか多数。
【著書】『折紙の数理とその応用』(共著、共立出版)など。関連記事
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